連載《プリズム》

プリズム(2025年7月10日号) 戦争と福祉

 ロシアとウクライナ、イスラエルとパレスチナ、アメリカとイラン――各地で続く武力衝突は、世界にあらためて「戦争」の現実を突きつける。ミサイルの着弾が報じられるたび、破壊された都市や避難する人々の映像が飛び込んでくる。いつの時代も、戦争で最も弱い立場に立たされるのは、子どもや高齢者・障がい者などの「福祉を必要とする人々」である。
 戦火の中で介護を必要とする人たちは、どのような状況に追い込まれているのだろうか――。国連機関やNGOの報告によれば、避難所や一時的な収容施設では、バリアフリーやプライバシーの配慮が行き届いておらず、日常の介護が継続できなくなる問題を引き起こしている。また、避難先から認知症患者が行方不明になる事例なども報告されている。直接的なミサイル攻撃だけでなく、福祉のセイフティーネットが破壊されることによって、命の危機に直面する人が、数多く存在しているのである。
戦争とは、人の命を奪い、日常を破壊する暴力の極致である。一方、介護や福祉は、人の命と尊厳を守り、生活を支える営みである。どちらも人間の極限に関わる領域であり、一見すると対極にあるように思えるが、実は「戦争と福祉」は、密接に関係している。戦争が起きれば、真っ先に揺らぐのが福祉の基盤だからだ。
 報道によれば、米国防総省は日本を含むアジアの同盟国に対し、国防費をGDP比で5%まで引き上げるよう求めている。戦争への備えは「万が一」かもしれないが、介護や福祉は「毎日」の問題である。「国家は戦争もすれば、福祉もする」。ある厚生省幹部の言葉を今も忘れることはできないが、その方向性を決めるのは、私たち国民一人ひとりだ。7月20日は参議院選挙の投票日。あなたの考えを、その一票に投じる日である。

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