連載《プリズム》

森を歩く

森を歩く

 大阪府八尾市にある特養「寿光園」。八尾市介護保険事業者連絡協議会の事務局を置き、地域のネットワークづくりにも熱心だ。寿光園はすべて4人部屋だったが、一昨年に定員70人を変えずに新館をつくった。(プリズム2012年7月)

 本館の4人部屋は2人部屋と3人部屋に作り替え、空きスペースは利用者のためのフリースペースに。新館には、ユニット型個室から「ユニット型多床室」の4人、3人、2人用の部屋までを作り、どの部屋もゆとりをもたせた。合わせて、ショートステイの定員を6人から19人に増やし、別棟のデイセンターを本館に移した。こうした自由な発想の部屋づくりを公費で行うのは難しく、増築費用は法人自前で用意した。

 移転にあたり、どの部屋を選ぶかは利用者の意向が尊重された。最後まで残ったのがユニット型個室。利用料がネックで、予想していた通りだった、と施設長の福森潔さん(53歳)。やはり、利用料はサービス選択の重要なファクター。併設するグループホームの利用者についても、特養より利用料が高いため、最近は待機者が減ってきたという。一方、19床に増えたショートステイは、家族の入院などによる緊急入所の利用に対応できるようになった。この地域では、特蓑でつくる緊急ショートネットワーク連絡会があり、自施設が詰まっている場合には、他施設のショート利用をすすめる仕組みがある。いま日本にある多様な住まいとケアの在り方を、福森さんは「森」と評する。

 「特養は昔からある在来種の大木だとすれば、最近のサービス付き高齢者向け住宅などはいわば外来新種。そこに有料老人ホームやケアハウス、小規模多機能型居宅介護などが、あたかも森を形成するかのようにして混在している。選択肢が増えたのであればよいが、週択肢がありすぎて利用者は森に迷うばかりかも知れない。肝心の特養の大木さえどこにあるのか分からない」と福森さん。

 森には道案内人がいる。ケアマネジャーであったり、地域包括支援センターだ。しかし、ショッピングセンター内に地域包括支援センターの案内看板を置くなど宣伝に努める八尾市でも、地域包括支援センターの認知度は3割程度にすきない。地域のネットワークづくりに社会福祉協議会の役割は大きいとみる。「地域包括ケアには在宅サービスと施設サービスの両方が必要です。この両者の仲介役が、森を迷わずに歩くのに欠かせないのです」。

(シルバー産業新聞2012年7月10日号)

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