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介護施設での排せつケアの確立~チームで取組む個別ケアで快適な自立排せつを目指す~特養「味酒野ていれぎ荘」×ユニ・チャーム メンリッケ 特別対談

介護施設での排せつケアの確立~チームで取組む個別ケアで快適な自立排せつを目指す~特養「味酒野ていれぎ荘」×ユニ・チャーム メンリッケ 特別対談

 2021年4月の介護報酬改定から間もなく、3カ月が経過します。高齢者の自立排せつを支援する「排せつ支援加算」は、今改定で国に排せつに関するデータ提出をしてフィードバックを受けるというPDCAサイクルを評価する加算と、その結果として利用者の自立排せつが達成された場合にアウトカム評価をする加算体系が新たに創設されました。しかし、昨年度までの旧制度での同加算算定率は低く、特に特養で4.17%(第183回介護給付費分科会資料より)と低調でした。算定期間の上限が撤廃されるなど、加算算定しやすい仕組みとなった一方で、現場の業務負担を減らすための取組みなどは引き続き求められています。

そこで今回は、全国老人福祉施設協議会役員で排せつケアに積極的に取組む特養「味酒野ていれぎ荘」施設長の窪田里美さんと排せつケア業務を担当する浅野俊江相談員、スウェーデンで生まれた成人用排せつケア用品ブランド、「TENA(テーナ)」(成人用紙おむつ)を販売するユニ・チャーム メンリッケの森田徹社長に、排せつケアの考え方などについて対談していただきました。(5月14日にオンラインにて収録)

  ※窪田さんによる「排せつ支援加算算定に向けた解説と、取組み事例のインタビュー」も掲載中!詳細こちら
「浅野相談員、窪田施設長(味酒野ていれぎ荘)」

「浅野相談員、窪田施設長(味酒野ていれぎ荘)」

「森田社長(ユニ・チャーム メンリッケ)」

「森田社長(ユニ・チャーム メンリッケ)」

「排せつ物を片付ける」から個別性の高い排せつケアへ

森田徹社長 私たちはスウェーデンで生まれた成人用排せつケア用品ブランドで、1997年より日本国内で「TENA(テーナ)」(成人用紙おむつ)を取り扱っています。親会社である「Essity(エシティ)」は長年快適な排せつケアを目指して取組んできました。

 スウェーデンではノーマライゼーションの考え方の下に「①尊厳への配慮②個別ケア③自立支援」を排せつケアの考え方の3本柱としています。私たちもその理念と共に、製品の開発や排せつケア手法の提案を行っております。
 
窪田施設長 排せつケアの3本柱は世界共通ですね。私は看護師として病院や特養などで34年間勤務してきましたが、恥ずかしながら以前は「排せつケア=排せつ物を片付けること」と考えており、個別・自立的な排せつケアは実践できていませんでした。

 しかし、西村かおるさん(現:日本コンチネンス協会名誉会長)と出会い、話を伺う中で「排せつとは、生活全般に影響があり、利用者の生活の質向上にも繋がる繊細なケア」だと気が付きました。そして2003年には愛媛大学看護科の当時の教授加藤先生たちと一緒に「えひめ排泄ケア研究会」を立ち上げ、勉強会を定期開催するなど、愛媛県での排せつケア技術向上に取組んできました。

 現在は「排せつを大切にすること」「最期まで口から食べること」などが高齢者の生活を支える上で時に必要だと考えています。

森田社長 「排せつケア=排せつ物を片付ける」という考えは珍しいことではなく、3年に1回ヨーロッパで開催される排せつに関する学会でも、毎回「おむつを処理することから、排せつケアを行うためには何が必要か」との議題が上がります。

 さらに印象に残っているのは、学会でおむつのことを「コンテインメントプロダクト」と言っていたことです。コンテインメントとは「包み込む」、プロダクトは「製品」という意味で、つまりは排泄物を受け止めて包み込むモノという認識です。

 この考えをいかに、「個別、尊厳のある排せつケア」に繋げるかについて毎回議論がなされています。私たちもより良い排せつケアについて考え、発信することの重要性を感じています。

浅野俊江相談員 排便をしてスッキリすることで、生活に意欲が出る利用者もいます。このほか排せつケアに取組んだことで、適切なおむつ交換の実施により皮膚を綺麗な状態で保ち褥瘡予防に繋がったり、トイレ排せつのためにベッド上から車いす上での活動時間が増えました。きちんと排せつケアに取組むことで、利用者の生活全般に良い影響が生まれます。
「施設系サービスにおいて排泄に介護を要する利用者への支援に係る手引き」より抜粋

「施設系サービスにおいて排泄に介護を要する利用者への支援に係る手引き」より抜粋

自立排せつの理念を共有し、多職種がチームとなり取組む

窪田施設長 排せつのメカニズムをしっかりと理解することも、より良い排せつケアの実現には非常に重要です。排尿や排便の仕組み、便の状態や排尿日誌作成によるパターンの把握など学ぶことは多岐にわたります。

 私が役員を務める全国老人福祉施設協議会では、2018年度介護報酬改定で排せつ支援加算が新設された際に、「施設系サービスにおいて排泄に介護を要する利用者への支援に係る手引き」を作成しました。
施設からは「自立排せつの評価方法がわからない」などの声も多くあり、排せつのメカニズムや関連する疾患と医療的ケア、アプローチ方法などをまとめました。

 排せつケアは▽利用者に便意・尿意を聞く▽ベッドから離床し、立ち上がり歩く/車いすで移動する▽便座に座る▽トイレのカギを閉める▽用を足した後に拭く▽衣類を着脱する▽手を洗う――など連続する行為を、一つ一つ丁寧にアセスメントする必要があります。

 また、よく食べ・よく排泄するために「口から食べる(摂食)、飲む(嚥下)」「食物繊維や水分量(栄養)」のように栄養士や作業療法士(OT)、理学療法士(PT)、言語聴覚士(ST)など多職種が、それぞれの専門的視点で利用者の生活全体を評価していくことも重要です。

森田社長 がむしゃらに排せつケアに取組むだけでは、現場への負担が大きくなってしまいますよね。施設として「自立排せつ」への目標や理念をしっかり立てることが重要で、そのためには知識や考える力、判断力が必要となってきます。私たちユニ・チャーム メンリッケは現在、1500カ所以上の施設や病院で活用いただき、ともにより良い排せつケアの実現に取組んできました。

 TENAの考える排せつケアには「排せつをチームで支える」という視点を中心においています。導入いただく際には、「コンチネンス・サポートチーム(CST)」を立ち上げ、排せつケアをサポートする弊社アドバイザーと、▽介護職▽看護師▽PT▽OT▽ST▽管理栄養士――など施設の多職種が一丸となって排せつケアの課題抽出や計画作成、おむつのあて方等の技術向上に取組みます。

 食事や運動機能、口腔衛生など生活全般に関わる排せつケアは、多職種連携のきっかけにもなる非常に大切なケアです。「自立排せつ」という共通の目標に対して、チームで課題を見つけて、アプローチ方法を考え、実践する体制の確立にも繋がると思っています。

窪田施設長 私たちの施設でも排せつ支援に取組む時、まず初めに「なぜ取り組む必要があるのか」など目標や理念を施設全体で考えました。排せつ支援加算の算定を目標にした場合、「算定に向けてどのような取組みが必要か」や「必要な排せつケアの内容」などを考える必要があります。

 そうする中で、職員一人ひとりが利用者のことを考えて、小さな気づきが見えてきます。この「小さな気づき」を排せつケアの議題の遡上にあげることで、チームで考えるきっかけになります。

森田社長 チーム活動が疑問を解決する場にも繋がっているということですね。合わせて、リーダーシップをもってチームで課題解決に取組む人材も必要となりますね。

窪田施設長 特養には排せつをはじめ、様々な委員会やチームがあります。リーダーとなる職員には、委員会で何に取組むか考えてもらう必要があります。そして、職員一人ひとりも考える力を持つことと、出された意見を実践できる環境づくりも重要になります。

森田社長 「誰のために取組むのか」「何のために取組むのか」この2つを考えるということですね。

窪田施設長 はい、そうです。「気づく」ことが「考える」ことに繋がります。
 そして、現在の課題は人材育成です。私たちの特養「味酒野ていれぎ荘」では2年前より排せつ支援加算の算定に取組んできました。取組み開始当時の職員は「自分たちで考え、エビデンスに基づいた排せつケア」を提供して、私たちなりの自立排せつケアに取組んできました。

 しかし、その後に入職した職員にとっては、すでに確立された排せつケアとなり新たに考えず「先輩を見習ったケア」になっていました。施設の考える自立排せつケアの理念を継続して共有するとともに、排せつケアの知識などの教育は常に行うことが大切だと思っています。

自分がされたいケアを目指す

窪田施設長 特養で排せつケアの指導ができる看護師を増やしたいと思い、排せつケアに積極的に取り組んでいた医療法人笠松会有吉病院と連携して、排せつケアの勉強会を開催いただきました。

 おむつといっても「排尿量から考え、利用者ごとに吸収量の異なるパットの装着する」、「薄型のおむつを活用して活動量を増やす」など個別ケアの視点がふんだんに盛り込まれており、おむつ交換を中心に行っていた自分にとっては、とても衝撃でした。

 施設研修の一環として、実際におむつに排せつして数時間過ごしてもらいます。排せつしたおむつで過ごすことはとても不快であり、その気持ちを体験することで、より快適なケアの方法を自主的に考えてもらうことを以前は実施していましたので、今後も定期的に取り組みたいと考えています。

森田社長 その方の生活スタイルやリズムに合わせて選択していくことが大切だと考えます。私たちは、おむつの正しいあて方や、個別のエビデンスに基づくおむつの選び方などを共に検討し、ご利用者だけなく職員の皆さまにとっても快適な排せつケアの実現を目指しています。

窪田施設長 大きなおむつはズボンをはいても「おむつをしている」とわかってしまうため、恥ずかしさから活動を控える恐れがあります。また、100%蒸れないとは言えません。

 日常生活は十人十色で利用者一人ひとりに合わせたケアを考えることが重要です。シモの世話は誰にとっても恥ずかしく、人にされたくないことだと思います。自分が介護を受けるとき「おむつに排せつをしたまま過ごしたいか」、「ベッドの上で排せつしたいか」、排せつケアを我が事としてしっかり考え、少しでも快適な排せつケアを目指していきたいです。

浅野相談員 特養の入所者で自立できる方は少ないですが、自分のタイミングでトイレに行くことができたら、それは自立排せつだと思います。今までできなかったことが、その人の力で一つでもできるように、最適なケアを提供していきます。

森田社長 自立しているということは希望があることです。そして、「自立したい」と思っている人は、希望があるから取組んでいるのだと思います。

 我々はおむつメーカーとして、ご利用者が快適に過ごすことのできる排せつケア用品を提供し、施設の方々と共により良い排せつケアの実現に取組んでいきます。
TENAは肌の健康も考えた商品開発を行っている

TENAは肌の健康も考えた商品開発を行っている

社会福祉法人慈光会 高齢者福祉施設「味酒野ていれぎ荘」(愛媛県松山市)

 特別養護老人ホームやデイサービス、相談窓口を運営。利用者一人ひとりの希望や願いを聞き、尊厳を守った「百人百色介護」を基本にサービスを提供している。
https://www.jikoukai-ehime.or.jp/misakeno/

ユニ・チャーム メンリッケ(東京都港区)

 スウェーデン生まれの成人用排せつケア用品「TENA」を販売。成人用おむつや清拭タオル、皮膚保護クリームなども取り扱っている。コンチネンスケアのノウハウを提供するTENAアドバイザーが、施設・病院の職員の方々と共に、排せつケアの向上に取組む。
https://www.tena.co.jp/

【PR】排泄ケア現場のニーズや疑問に24時間・365日寄り添うオンラインTENAアカデミー

 ユニ・チャーム メンリッケ(株)では、いつでも皆さまの疑問に寄り添えるよう、2021年1月、オンラインTENAアカデミーを開講しました。

 TENAをご利用の方には、あらたなTENA活用のヒントが得られるように。これから活用を検討いただく方には、TENAで何が実現できるかご一緒に描けるよう、オンラインコミュニティを目指したサイト運営を行っています。

 TENAユーザー様は、オンラインTENAアカデミー会員になっていただくと、 会員限定オンライン学習プログラムのご利用できるなどの特典があります。ぜひご登録ください。

オンラインTENAアカデミーサイトはこちら

水曜日はコンチネンスケアを考える日:TENAウェブセミナーを定期開催

 また、「水曜日はコンチネンスケアを考える日」とし、定期的にウェブセミナーを開催しています。

 今日からのコンチネンスケアを変えるエッセンスを凝縮してお届けする基本のセミナーシリーズは全3回。水曜日に定期的に開催しています。新人研修として、リーダーのスキルアップの機会として、ぜひご活用ください。

 また、特別講演として年4回、オンライン北欧視察研修を開催。“寝たきり老人のいない国”スウェーデンより、スウェーデン・クオリティケア Japan Area Manager エーミル・オストベリさんをオンラインTENAアカデミーにお招きし、TENAが生まれた国スウェーデン現地から最新情報をお届けします。ご参加お待ちしております。

TENAウェブセミナーの詳しい情報はこちら

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