生き活きケア
生き活きケア226 ふわふわパンが自慢の子ども食堂へようこそ
三芳町社会福祉協議会が運営する「デイサービスセンターけやきの家」は、町唯一の認知症対応型通所介護事業所。毎週金曜の午後には、若年性認知症の人がデイ利用後に手作りのパンと料理で一組の親子をもてなす子ども食堂「セカンドキッチンけやき」を開催している。一人ひとりが役割を果たしながら、和気あいあいと調理を進行。訪れた親子が料理の味や盛り付けに感激していると、利用者も満足そうに笑顔を浮かべていた。夏真っ盛りのある金曜日、昼下がりに「けやきの家」のキッチンを覗くと、すでに数人がクルクルと忙しそうに調理の真っ最中。この日は5人の利用者が参加し、介護職員や慣れ親しんだボランティアスタッフと会話しながらも、手元は休むことなく動き続けていた。
メニューは、食パンやオニオンブレッドなどのパンを主食に、じゃがいもの冷製スープ、にんじんドレッシングをかけたサラダなど盛りだくさんのコース仕立て。全て手作りで、盛り付けに使用するミントなどの香草も敷地内で栽培・収穫する。
唯一の女性参加者Aさんは、にんじんやレモン汁が入った鍋を根気よくかき回し続けていた。10分ほど煮詰めると水分が飛び、にんじんの優しい甘さが特徴のジャムが完成。一口味見をすると、ぱっと喜色を浮かべたAさん。大成功のようだ。ほっとしたのもつかの間、スタッフに「Aさん、パン作りをお願いしたいの!」と声をかけられ、意気盛んに次の作業へ向かった。
子ども食堂の活動に約10年間参加している利用者の一人、猪鼻秀俊さんは、スタッフに手を添えられながら、チャック付きポリ袋に入れた生地を揉みこみ、フォカッチャを作る。もともと「人の役に立ちたい」という思いが強く、意欲的に活動していたが、認知症の進行に伴い徐々に運動機能が低下し、発語も困難に。現在は車いすを利用しながら、自分ができることに前向きに取組んでいる。
猪鼻さんはフォカッチャの生地をぎゅっと揉みこむ
キッチンでは、調理器具を洗ったり、全員分のコーヒーを淹れるなど、利用者たちがそれぞれ積極的に自身の役割を果たしていた。互いに感謝のことばを掛け合い、嬉しさと照れくささが混ざった表情で応える。パンの発酵を待つ間は、お菓子とコーヒーを味わいながらおしゃべり。時には大笑いが起き、楽しい雰囲気に満ちていた。
オーブンから立ち込める香ばしさが鼻腔をくすぐる頃、会場となる和室をピカピカに掃除し、内装もセッティング。オープン時刻の18時を前に、ふんわり焼けたパンと盛り付けにこだわった料理が完成した。
訪れた親子2人を全員で出迎えると、早速提供を開始。一品ずつ説明をしていると、「おしゃれ!これも手作りなんですか?」と驚かれる場面も。帰り際には中学生の男の子から「美味しかったです」と伝えられ、その場の全員に笑顔が浮かんだ。
おしゃべり上手な男性利用者が慣れた様子でオニオンブレッドの提供を担当
「家族を守らなくては」の叫びに気づかされた、役割の大切さ
けやきの家は2005年に開設。16年から子ども食堂の活動を始めた。きっかけは、不安や苛立ちから頻繁に外出してしまう50代の男性利用者による「家族を守るために働かなくてはいけない。こんなところで遊んでいる場合じゃない」という訴え。介護保険統括管理者の内城一人さんは「身体は動くのに一般就労ができない若年性認知症の人が、社会に必要とされ、役割を持てる場所が必要だと気付いた」と振り返る。
当初は若年性認知症の人と地域住民、ボランティアで調理し、多いときには集まった子どもたちに50食を提供することもあったが、コロナ禍を経て現在の一組食堂の形式に。また他に、地域住民への野菜の販売や、高齢者宅の草むしりなどの有償ボランティア活動も行っている。
デザートはチョコを練り込んだぐるぐるパンにアイスを添えて
(シルバー産業新聞2026年9月10日号)


