生き活きケア

生き活きケア214 「ナラティブケア」で地域を包む

生き活きケア214 「ナラティブケア」で地域を包む

 一人ひとりの人生のナラティブ(物語)を支えるケアを目指し、10年前から定期巡回サービスを展開してきたナラビットホールディングス(盛岡市、北村充社長)。利用者の人生に向き合う介護をめざす。介護スタッフの平均年齢28歳を実現。2年前の23年9月には、定期巡回に加え、住宅地にあるリンゴ畑の土地を借りて住宅型有料老人ホーム「りんごのおうち」を開設。住まいの場も確保された。

地域の暮らしを支えるケアの原点

 現在、事業運営を担う北村充氏。もともと自動車整備士・検査員として安全な車づくりに携わっていたが、友人のすすめで岩手県の特養に勤務した。介護福祉士、ケアマネジャーの資格も取得し、次第に介護の道へ入り込んだ。

 施設では「今日からここがあなたの家ですよ」と声をかけて入居者を迎えていたが、本当にその人らしい暮らしを支えているのか、悩んだという。15年に独立し、定期巡回・随時対応型訪問介護看護を始めた。

 「対話を通じて相手の人生をそっと支えることが介護の専門性です。目の前の人に関心を持ち、その人の生活の姿(ナラティブ)を想像しながらケアに向き合います」と北村氏は語る。「リンゴの収穫も、野菜畑も、花も、動物も育てる。地域の中で暮らし続ける場づくりを目指しています」と話し、SNSでも積極的に発信。若い介護職が「働きたい」と思える職場づくりに努めてきた。

3匹の羊とともに迎える日常

 取材時には、なんと3匹の羊が記者を迎えてくれた。動物の持つ力は大きい。かわいらしい瞳で見つめられると、心がほぐれ、表情が緩む。

 カンファレンスには本人も参加し、本人の気持ちや意見を共有する。参加できない場合は、テーブル中央に本人の写真を置いてケアスタッフが話し合う。

 畑(約80坪)では野菜や果物を育て、羊の毛刈りも行う。月2回の地域食堂、年2回のマルシェも開催されるなど、地域とのつながりが広がっている。

人生の終末を見届けるケア

 かつて町工場で働き、自由奔放だった利用者のEさん。長い闘病の末、好きなお酒やたばこはやめず、最期は病院から一人暮らしの自宅に戻った。「私は、大好きだったたばこに火をつけた。そして父は逝った。私って、おとうさんのことが好きだったんだ」と娘さんは涙を浮かべながら語った。最期にしっかりと向き合えたことが、家族にとっての癒やしとなったと北村氏は言う。

災害時にも「24時間の安心」

 定期巡回の強みは、定期訪問・随時対応・訪問看護・夜間対応を柔軟に組み合わせて提供できる点だ。24時間体制のため、災害時にも対応可能。「市を流れる中津川が氾濫した際は、夜間の巡回中、行方不明になった一人暮らしの利用者の家に、はしごをかけて窓から入り、無事が発見できた」と北村氏は語る。

「50 めえー」で地域交流も

 施設内の売店では、園で採れた野菜が並ぶ。「りんごのおうち通貨50めえー」と呼ばれる50円相当の事業内で通用するお金も発行。お手伝いをしてくれた利用者に渡す仕組みだ。

 スナックのママだった利用者は、人生経験が豊かでおしゃれ好き。人生相談に乗ったり、リンゴの摘花やろうそくづくりなどを通じ、利用者とスタッフが日々を共に楽しむ。
大根の皮をむき、50めえーをゲット。家の中での役割を復活する。介護スタッフがそっと見守る

大根の皮をむき、50めえーをゲット。家の中での役割を復活する。介護スタッフがそっと見守る

若い世代とともに歩む介護の未来

 「ここが地域の拠点になることを目指しています。2040年に向け、人材不足が深刻化するなか、地域包括ケアシステムの重要性は増すばかり。この地域には児童養護施設、保育園、小学校、公民館などもあります。地域食堂や給食デリバリーを通じて、地域の支え合い応援のエールを送りたい」と北村氏は展望を語る。

 2年前、北村氏は県介護福祉士会会長に選任された。「介護の魅力は無限大。その専門性を突き詰め、社会に必要とされる存在であり続けたい」と挨拶文で述べた。同施設で働く千葉優希さん(25歳)も、同協会の理事に登用され、若手介護職の声を社会に発信し続けている。ともに学び成長する職場に若手が集まる。
ホールでは畑でできた野菜を来訪者に販売

ホールでは畑でできた野菜を来訪者に販売

(シルバー産業新聞2025年7月10日号)

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