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サ高住・住宅型有老経営サミット 大手4社が語る「経営のリアル」
超高齢社会のインフラとして、供給数が60万室を超えた「外付け型ホーム(サービス付き高齢者向け住宅、住宅型有料老人ホーム)」。しかし昨今、物価高騰や慢性的な人材不足が経営を重く圧迫している。11月18日、都内で開催された「サ高住・住宅型有老経営サミット」(主催=全国有料老人ホーム協会、高齢者住宅協会)には、業界大手4社の幹部が登壇。「外付け型ホーム運営・経営のリアル」をテーマに、激変する環境への対応策を討議した。
物価高騰受け相次ぐ価格転嫁
経営を直撃する物価高騰に対し、各社はコスト分析に基づく価格改定に着手している。しかし、企業努力だけでは吸収しきれないコスト増の実態も浮き彫りとなった。
SOMPOケアは今年8月分よりサ高住「そんぽの家S」などで月額7600円増(管理費、共益費、生活支援サービス費、食費の合計)の改定を実施した。小泉雅宏執行役員によれば、修繕費・消耗品費の実績値は2019年度の3440円から23年度には6989円へと約2倍に急騰。これに伴い、共益費を3500円引き上げた。
さらに深刻なのは食費だ。米の仕入れ単価(キロあたり)は、23年度比で25年2月以降は230%(302円→696円)に達している。1人力で吸収する「ぎりぎりの判断」を下している。加えて、最低賃金上昇に伴う人件費増を補うため、生活支援サービス費も2300円増額した。
HITOWAケアサービスは、二段階の改定で対応する。第1弾として23年5月から24年末にかけて食費と管理費を合わせて計6000円を値上げしたが、コスト高騰は止まらず、来年1月から4月にかけて第2弾を実施予定だ。山本晃弘執行役員は、新たに食費で3000円、管理費で5000円、合計8000円の追加改定を準備中であることを明かした。並行し、コスト抑制策も強化。全施設で電力使用量の「見える化」と節電を徹底し、使用量を前年比7%削減させた。
学研ココファンも、19年以来となる二度目の改定を今年3月に実施。生活支援サービス費を5500円、食事サービス費を2280円改定し、月1日あたりの米原価だけで71円のコスト増となるが、今回は1日60円(月額1800円)の値上げに留め、差額は企業努額で約7800円の負担増を求めた。木村祐介常務取締役は、消費者物価指数が20年比で109%、ガソリン代が130%となる中での「苦渋の決断」であることを強調した。
ニチイケアパレスは23年以降、特定施設や住宅型で食費を中心に3000円程度の改定を重ねてきたが、今年12月にも特定施設で食費3600円、住宅型で厨房管理費1800円の改定を実施予定。単なる値上げにとどまらず、従来の厨房調理からクックチル導入への切り替えを進めることで、厨房運営費の構造的な抑制を模索していると櫻井紀之専務取締役は報告した。
SOMPOケアは今年8月分よりサ高住「そんぽの家S」などで月額7600円増(管理費、共益費、生活支援サービス費、食費の合計)の改定を実施した。小泉雅宏執行役員によれば、修繕費・消耗品費の実績値は2019年度の3440円から23年度には6989円へと約2倍に急騰。これに伴い、共益費を3500円引き上げた。
さらに深刻なのは食費だ。米の仕入れ単価(キロあたり)は、23年度比で25年2月以降は230%(302円→696円)に達している。1人力で吸収する「ぎりぎりの判断」を下している。加えて、最低賃金上昇に伴う人件費増を補うため、生活支援サービス費も2300円増額した。
HITOWAケアサービスは、二段階の改定で対応する。第1弾として23年5月から24年末にかけて食費と管理費を合わせて計6000円を値上げしたが、コスト高騰は止まらず、来年1月から4月にかけて第2弾を実施予定だ。山本晃弘執行役員は、新たに食費で3000円、管理費で5000円、合計8000円の追加改定を準備中であることを明かした。並行し、コスト抑制策も強化。全施設で電力使用量の「見える化」と節電を徹底し、使用量を前年比7%削減させた。
学研ココファンも、19年以来となる二度目の改定を今年3月に実施。生活支援サービス費を5500円、食事サービス費を2280円改定し、月1日あたりの米原価だけで71円のコスト増となるが、今回は1日60円(月額1800円)の値上げに留め、差額は企業努額で約7800円の負担増を求めた。木村祐介常務取締役は、消費者物価指数が20年比で109%、ガソリン代が130%となる中での「苦渋の決断」であることを強調した。
ニチイケアパレスは23年以降、特定施設や住宅型で食費を中心に3000円程度の改定を重ねてきたが、今年12月にも特定施設で食費3600円、住宅型で厨房管理費1800円の改定を実施予定。単なる値上げにとどまらず、従来の厨房調理からクックチル導入への切り替えを進めることで、厨房運営費の構造的な抑制を模索していると櫻井紀之専務取締役は報告した。
採用から定着へ
採用競争が激化する中、各社は「獲得した人材をいかにつなぎ留めるか」においても、独自のデータを分析し、積極的な投資を行っている。
SOMPOケアは19年以降、処遇改善に累計で総額56億円を投入。効果は鮮明で、16年に19.1%だった介護職の離職率は、24年には11.7%まで低下し、業界平均を下回る低水準で安定している。
小泉氏が特に成果として強調したのが、離職率が高止まりしていた「無資格・未経験者」層。教育研修制度や人事制度の改定を集中的に行い、離職率を20年度の19.7%から24年度には15.9%へと約4ポイント改善させた。今年上期の採用数は前年同期比143人減の約500人となったが、あくまで意図的な抑制の結果だという。現場の負担軽減と処遇向上の両輪で、採用を抑制しても回る「筋肉質な組織」を目指す。
学研ココファンの木村常務は、同社の採用経路の内訳を「ハローワーク17%、自社サイト23%、リファラル(職員紹介)16%」と明らかにした。リファラル採用を主軸に据えることで、採用コストの圧縮と入職後のミスマッチ防止という二つの課題解決で成果を上げているとした。
しかし定着面で課題を抱える。24年10月から今年9月のデータによると、勤続3年以上の職員の離職率が10.8%と安定しているのに対し、入社1年未満の離職率は36.2%に達している。新入職員の3人に1人が1年以内に去っている計算だ。
同社は対策として独自の初任者研修やライブオリエンテーション、役員との経営懇談会を実施しているが、参加率にはばらつきがあり、初期定着の決定打には至っていない現状がうかがえる。木村常務も「この短期離職対策が定着の最大課題」と危機感を隠さない。
ニチイケアパレスは、専門性を金銭で明確に評価する「プラチナ介護職制度」を導入し、ベテラン層をつなぎ止める。介護福祉士に加え、認知症ケア専門士や終末期ケア専門士など指定の4資格を保有する職員を「介護のプロフェッショナル」と認定し、月額3万8000円の高額な手当を支給するものだ。
また、心理的安全性の確保にも注力している。「本社直通ホットライン」を設置し、施設内のトラブルや人間関係の悩みを、現場を通さずに直接本社へ相談できる仕組みを構築。さらに入社1カ月後の全職員アンケートや、外部委託によるオンライン面談を実施し、早期離職の芽を摘む体制を敷いている。
HITOWAケアサービスは、デジタルツールと制度の両面からエンゲージメント向上を狙う。独自開発の職員情報共有ツール「イリーゼアーチ」を導入し、福利厚生情報の周知や各種アンケート、コミュニケーションツールとして活用。年に1回「eNPS(従業員満足度調査)」を実施し、施設ごとの傾向分析と対策につなげている。スポットワーカーも積極的に活用。急な欠員への対応に止まらず、そこから直接雇用へ繋げるスキームも構築し、多様な人材確保チャネルの確立を推進する。
SOMPOケアは19年以降、処遇改善に累計で総額56億円を投入。効果は鮮明で、16年に19.1%だった介護職の離職率は、24年には11.7%まで低下し、業界平均を下回る低水準で安定している。
小泉氏が特に成果として強調したのが、離職率が高止まりしていた「無資格・未経験者」層。教育研修制度や人事制度の改定を集中的に行い、離職率を20年度の19.7%から24年度には15.9%へと約4ポイント改善させた。今年上期の採用数は前年同期比143人減の約500人となったが、あくまで意図的な抑制の結果だという。現場の負担軽減と処遇向上の両輪で、採用を抑制しても回る「筋肉質な組織」を目指す。
学研ココファンの木村常務は、同社の採用経路の内訳を「ハローワーク17%、自社サイト23%、リファラル(職員紹介)16%」と明らかにした。リファラル採用を主軸に据えることで、採用コストの圧縮と入職後のミスマッチ防止という二つの課題解決で成果を上げているとした。
しかし定着面で課題を抱える。24年10月から今年9月のデータによると、勤続3年以上の職員の離職率が10.8%と安定しているのに対し、入社1年未満の離職率は36.2%に達している。新入職員の3人に1人が1年以内に去っている計算だ。
同社は対策として独自の初任者研修やライブオリエンテーション、役員との経営懇談会を実施しているが、参加率にはばらつきがあり、初期定着の決定打には至っていない現状がうかがえる。木村常務も「この短期離職対策が定着の最大課題」と危機感を隠さない。
ニチイケアパレスは、専門性を金銭で明確に評価する「プラチナ介護職制度」を導入し、ベテラン層をつなぎ止める。介護福祉士に加え、認知症ケア専門士や終末期ケア専門士など指定の4資格を保有する職員を「介護のプロフェッショナル」と認定し、月額3万8000円の高額な手当を支給するものだ。
また、心理的安全性の確保にも注力している。「本社直通ホットライン」を設置し、施設内のトラブルや人間関係の悩みを、現場を通さずに直接本社へ相談できる仕組みを構築。さらに入社1カ月後の全職員アンケートや、外部委託によるオンライン面談を実施し、早期離職の芽を摘む体制を敷いている。
HITOWAケアサービスは、デジタルツールと制度の両面からエンゲージメント向上を狙う。独自開発の職員情報共有ツール「イリーゼアーチ」を導入し、福利厚生情報の周知や各種アンケート、コミュニケーションツールとして活用。年に1回「eNPS(従業員満足度調査)」を実施し、施設ごとの傾向分析と対策につなげている。スポットワーカーも積極的に活用。急な欠員への対応に止まらず、そこから直接雇用へ繋げるスキームも構築し、多様な人材確保チャネルの確立を推進する。
同一建物減算「内部安定」か「地域展開」か
24年改定における同一建物減算拡大(同一建物利用者が9割以上で12%減算)への対応について、SOMPOケアはサ高住146棟の35%ほどが減算の対象に。将来的に減算回避を目指すとした。同社の方針は「内部供給の体制確保を優先」。あくまで建物内の入居者へのサービス品質と安全を最優先し、余力がある場合にのみ外部へ展開する戦略をとる。
学研ココファンは減算回避へ地域展開を進めている。木村常務は、サ高住併設の訪問介護事業所において「ケアマネジャーへの営業は基本中の基本」とし、営業経験のないサービス提供責任者や管理者に地域への売り込みを徹底させた。これにより外部への訪問割合が10%を超え、12%減算を回避した事業所は、24年4月〜9月期の32事業所(19.4%)から、今年10月〜26年3月期には50事業所(29.0%)へ拡大する見通しだ。外部訪問件数がゼロの事業所は半年で約6ポイント減少。同社は外部訪問1件につき、職員へ500円の手当を一律支給している。
「減算されていることを考えれば、500円払っても損益への影響は軽微」(木村常務)との経営判断であり、エリア内の複数事業所で外部利用者をシェアする「チーム化」も進めている。
学研ココファンは減算回避へ地域展開を進めている。木村常務は、サ高住併設の訪問介護事業所において「ケアマネジャーへの営業は基本中の基本」とし、営業経験のないサービス提供責任者や管理者に地域への売り込みを徹底させた。これにより外部への訪問割合が10%を超え、12%減算を回避した事業所は、24年4月〜9月期の32事業所(19.4%)から、今年10月〜26年3月期には50事業所(29.0%)へ拡大する見通しだ。外部訪問件数がゼロの事業所は半年で約6ポイント減少。同社は外部訪問1件につき、職員へ500円の手当を一律支給している。
「減算されていることを考えれば、500円払っても損益への影響は軽微」(木村常務)との経営判断であり、エリア内の複数事業所で外部利用者をシェアする「チーム化」も進めている。
(シルバー産業新聞2025年12月10日号)


