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やまゆり園再生基本構想を考える(6)/中山清司(連載165)

やまゆり園再生基本構想を考える(6)/中山清司(連載165)

 前回、行動障害が激しく、在宅生活を続けることが難しい知的障害・自閉症の人を抱える家族からは、施設入所を希望する声が大きいこと、しかし既存の入所施設はどこも定員いっぱいで入れず、入所待機の状態が何年も続いていることをお伝えした。

 国の基本方針は、入所施設はこれ以上作らず、むしろ施設からの地域移行も含め、障害のある人たちのグループホームを中心とした地域生活の実現を目指している。それを具体化するために、障害者総合支援法に基づく様々な福祉サービスメニューが用意されているが、その実態はどういうものであろうか。

 「障害が重く、行動障害のある人がどんどん後回しにされている」と、ある親御さんが筆者に漏らした一言がそれを象徴している。

 障害支援区分が重い人たちが利用する「生活介護」の通所事業所や、外出を支援する「行動援護」というサービスは用意されている。しかし、通所先の生活介護事業所で暴れてしまって利用を断られたとか、行動援護を利用したいが運営している事業所がどこにもないという事例がたくさんある。

 「グループホーム」や「短期入所(ショートステイ)」も、行動障害のある人がすぐに入居・利用できるかというと、全くそういう状況ではない。そもそも利用できる枠がほとんどないし、どうにか空いているところが見つかっても、行動障害が激しいのでホームのスタッフでは対応できませんとか、夜間にスタッフが配置できませんといった理由で断られてしまうことがよくある。

 つまり、障害が軽くてスタッフ対応(直接支援)もさほど難しくない層の人たちが福祉サービスメニューに容易にアクセスできる一方、障害が重く行動障害の激しい層の人たちへの支援が「後回しにされている」構図があることに、筆者も同意する。

 現在進行形のコロナ禍においては、コロナ重症患者の対応で医療従事者が疲弊しているとか、医療崩壊が起こるなどと喧伝されている。しかしながらその一方で、一般の病院やクリニックは患者が減って経営が苦しいといった話も聞く。日本は世界でもトップクラスの病床をもち最新の医療設備があり、トータルの医療従事者が決して少ないわけでもないが、コロナ重症患者の対応にその資源が有効活用されていない。そういう機動性の欠如、あるいは縦割りの棲み分け構造が、障害福祉の世界でも起こっているのだ。

 この問題は、実は「措置から契約へ」「脱施設化」の流れのなか、公立の障害者施設が停滞・縮小され、福祉サービス事業における民間参入を促してきた施策の結果でもある。都道府県や地方自治体の福祉行政担当者の仕事も、「相談支援」という名のもと、どんどん民間事業所に移行されてきた。

 市役所の福祉事務所の窓口で、施設入所やグループホームへの移行をお願いしたいと親御さんが必死に訴えても、行政の窓口担当者からは「(障害福祉サービスが利用できる)受給者証の発行をさせていただきます」「近くに相談支援事業所がありますのでそちらで相談してください」「福祉施設やグループホームを運営している事業所のリストがありますので、直接お問い合わせください」といった程度の答えしか返ってこない。何とか親御さんが自ら、民間の相談支援の事業所や福祉施設に問い合わせても、「すぐに入れる施設やホームはありません」という結果となり、入所待機の状態が何年も続くことになる。

 「障害が重く行動障害のある人がどんどん後回しにされている」実態に、すべての福祉マンは忸怩たる思いがなかろうか。障害福祉の教科書には、滋賀県の近江学園を創設した糸賀一雄氏が『この子らを世の光に』と述べたと記されている。大変な人ほど福祉がいきわたらなければならない。それは公の仕事でもあり、身近な支援者の仕事でもあるはずだ。親や家族が抱え込まざるを得ない構図をどう打開していくかが、喫緊の課題である。

 NPO法人 自閉症eスタイルジャパン 理事長 中山清司

(シルバー産業新聞2021年1月10日号)

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