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「やまゆり園再生基本構想」を考える④/中山清司(連載163)

「やまゆり園再生基本構想」を考える④/中山清司(連載163)

 2016年7月に起こった「相模原障害者施設殺傷事件」の後、事件のあった津久井やまゆり園をどのように再建・再生するかという課題について、施設をとりまく関係者たちは多くの議論・検討を重ねてきた。その過程の中で浮かびあがってきたのは、知的障がいのある人たちの暮らしの場である入所施設とグループホームという2つの居住オプションをどのように捉えるかという問題であった。

個室と職住分離で生活リズム整える

 一概に入所施設がいいかグループホームがいいかという話ではないはずなのだが、筆者のまわりからも次のような捉え方がよく聞こえてくる。

 「施設は地域から離れたところにあって、隔離された感じがする」

 「グループホームのほうが入居者は少人数だし、家庭的だ」

 「グループホームだと障がいの重い人は暮らせない(自立度の高い人しか入居できない)」

 「強度行動障害のある人はグループホームでは暮らせない」

 「入所施設を希望しても定員がいっぱいで入所することは難しい」

 どれも全くの間違いではないが、実際はもっと多様である。人里離れた大規模なコロニーは各都道府県に1、2カ所であって、多くの入所施設は町中に立地している。かつて入所施設では4人部屋などが当たり前だったが、2015年に国のガイドラインが改定され、原則個室化された。

 5~10人程度の人数単位で暮らす小舎制ユニットで、職住分離スタイルの入所施設も増えてきており、そういう施設では積極的に行動障がいの激しい自閉症の人もノーマルな暮らしができるように施設運営を工夫している。筆者はかつてこのような小舎制の入所施設の立ち上げに参加したが、個室があって日中活動がきちんと用意されていることで、強度行動障害のある人が安定していく。自分なりに過ごせる居室が確保されていて、昼夜の生活リズムが整うことが行動障がいを予防・軽減すると言える。

 一方、重度・最重度の障がいのある人が暮らすグループホームもたくさんある。家では行動障害があって大変だった自閉症の人が、グループホームで暮らすようになって非常に落ち着いた例は多い。ここでも、個室スペースと職住分離の安定した生活リズムが有効だと筆者は考えている。

 要するに、施設でもグループホームでもノーマライゼーションの理念を目指して、誰もが地域で当たり前に暮らしていけるように現場は取り組んでいる。歴史的に入所施設が戦後の早い時期に整備され、障がい者の保護・隔離が優先されたことは否めないが、1980年代以降、グループホームの実践と並行して施設もまた改善されてきている。

 残念ながら「入所施設を希望しても定員がいっぱいで入所することは難しい」という意見はまさにその通りだが、実は「グループホームもまた入居することが難しい」のである。

 例えば千葉県のホームページによると、「平成29年4月現在、グループホームと障害者支援施設の待機者は合わせて705人います」「グループホームの設置に際して、依然として地域住民の反対にあうケースがあるため、障がいを理由とする差別の解消と障がいのある人の地域における生活の場の必要性について、地域住民の関心と理解を深めるための啓発活動が必要です」というのが、県の認識である。

 現実的な見解を申せば、施設がいいかグループホームがいいかという議論はあまり意味がない。筆者の意見は、障がいのある人の暮らしの場として施設もグループホームも必要であり、さらに言えば、一人暮らしや家族と暮らすなどの生活スタイルがあってもいい。施設やグループホームはそういう居住オプションの1つであって、当事者・家族のニードや意向に応じて選択できることが大事だと思う。実際に施設を必要としている人はたくさんいる。次回は、その実情をまとめてみたい。

 NPO法人 自閉症eスタイルジャパン 理事長 中山清司

(シルバー産業新聞2020年11月10日号)

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