現場最前線の今

強度行動障害支援の現場(6)/中山清司(連載154)

強度行動障害支援の現場(6)/中山清司(連載154)

 全国的に強度行動障害が注目されるようになった1980年代から90年代は、成人期の自閉症専門施設の開設ラッシュと重なる。三重の「あさけ学園」(1981年開設)、埼玉の「初雁の家」(85年開設)、北海道の「星が丘寮」(88年開設)、大阪の「なにわ学園」(90年開設)、神奈川の「東やまた工房」(90年開設)などがその代表例だ。これらの施設現場では、実際に激しい行動を呈する自閉症の利用者が何人もおり、現場は対応に苦慮していた。

強度行動障害と施設虐待は表裏一体の関係に

 当時、自閉症の専門施設で、ほとんどの利用者が自閉症であったにもかかわらず、そこで従事する現場支援者たちが自閉症の特性を正しく理解していたかと言えば、非常に頼りない状況であったと当事者の一人である筆者は振り返る。

 今では自閉症支援の基本と言えるような方略も、当時の現場支援者間ではさまざまな意見が錯綜していた。例えば、「個別化/個別プログラム」。これは一人ひとりのスキルや希望に合わせて個別に支援プログラムを提供していくことだが、現場では「みんなと一緒に過ごせるようになることが大事」「集団行動や全体の日課についていけるようにしないといけない」といった意見が多かった。

 個別プログラムの前提となる「評価(アセスメント)」という考えも、「人を測ることは差別的なので反対」「本人と付き合っていれば自ずとその人のことはわかる」といった反応が返ってきたりする。

 また「視覚支援」についても、「この人は言葉かけでわかる」とか「絵カードで動かすようなやり方はロボットのようでしたくない」といった捉え方をする支援者が多くいた。要するに、当時の現場支援者は、自閉症の特性がどういうものかを理解することよりも、自分たちの価値観や主観的な解釈で利用者支援にあたっていたのだ。

 その最たるものが、強度行動障害と言われる彼らの示す激しい行動についてだった。現場支援者たちは、そのような行動を「問題行動」「困った行為」「いけないことをしている」「(スタッフの)言うことをきかない」といった、総じて支援者や他利用者や施設に迷惑をかける行為と見ており、だから強制的にでも止めさせなければならないという理屈が成り立つ。その結果、支援者からの暴力や体罰、あるいは身体拘束(例えば、居室にカギをかけて出られないようにする施錠対応など)を誘発することになる。

 一方で、あれこれと支援者が介入してもその行動がいっこうに収まらないと、今度は「そんなにやりたいのなら好きなだけやらせよう」「好きなだけやれば満足するだろう」と放置されることもよくあった。この延長に、ネグレクト、あるいは支援の放棄と呼ばれる事象が生まれてくる。

 つまり、強度行動障害と施設虐待は表裏一体の関係にあると筆者は見る。実際、自閉症の利用者に対する施設虐待が表面化し、マスコミ報道されることもままあるが、これらの事件を調べると、「支援者の言うことをきかない利用者」「施設に迷惑をかける利用者」がターゲットにされていることがわかる。

 施設において、なぜ、その利用者はこんなに激しい行動をするのだろう。なぜ、その利用者は手洗いをやめないのだろう。なぜ、その利用者は夜中までずっと起きているのだろう。本来であれば、利用者の行動の理由や背景を検討することが求められるべきなのに、当時の現場支援者は、その行動はよくないこと、どうやったら止めることができるか、ということばかりに注意を向けていたのだと言える。

 2020年に入った現在、国は精力的に「強度行動障害支援者養成研修」を施設現場を中心に普及させようとしている。本研修プログラムを見ると、行動障害の理由や背景を検討・分析する方略が組み込まれている。四半世紀を経て、強度行動障害のアプローチは、表面的・対症療法的な行動抑制・行動修正から、自閉症理解に基づく問題解決的アプローチへと進化を遂げてきた。次回からは、現在の実践とそこでの課題を整理する。

NPO法人自閉症eスタイルジャパン 理事長 中山清司

(シルバー産業新聞2020年2月10日号)

関連する記事