未来のケアマネジャー

居宅介護支援の介護報酬改定が目指すもの/石山麗子(連載24)

居宅介護支援の介護報酬改定が目指すもの/石山麗子(連載24)

 社会保障審議会介護給付費分科会(以下「分科会」)での議論が進んでいる。多くの方が注目するのは、10月に示された「令和2年度介護経営実態調査」の結果に対し、今後の報酬をどう考えるか、であろう。今回の調査で、居宅介護支援事業所の収支差率は▲1.6%に転落した(表1)。分科会の委員の中から「基本単位数の引き上げを検討してはどうか」との意見もあったが、果たして基本単位を上げることが、いまの居宅介護支援の抱える課題の解決になるのか。

 居宅介護支援の収支差率は、マイナスながらも2018年までは改善のトレンドだった(表1)。その状況に加えて18年介護報酬改定では、利用者1件あたり基本単価はアップした。これまでのトレンドとプラス改定の経緯から、今年こそ±0かと思われたが結果はこのとおりである。つまりプラス改定をしても収支差率はプラスに転じないのだから、経営の構造に問題があり、その齟齬との調整をしなければ効果は出ない。

 筆者が考える居宅介護支援事業所単体で黒字経営のための条件には以下がある。

A.一人あたり介護支援専門員の給付管理件数を一定以上に保つ
B.特定事業所加算を取得し、継続的な上乗せの収入を得る
C.利用者ごとの加算が行える場合にはもれなく算定できるよう適切な運営を行う
D.減算等(特定事業所集中減算、逓減性)に該当しない適切運営を行う

 Aの観点からデータを見ると、介護支援専門員の1人あたり担当利用者数に特異な数字が見えてきた。表2では、件数の少ない20件未満(14.3%)、一方で逓減制にかかる40件以上(14.2%)と全体の約3割が経営の観点から、さして望ましい状況にない(表2)
 Bの観点から、分科会で示された厚労省の資料によれば、特定事業所加算を算定できているのは29.1%に過ぎない。黒字化の条件を満たさない事業所の比率が高いことがわかる。

 11月26日、第194回分科会で厚生労働省の事務局案は、新たな特定事業所加算(a)を提示した。算定要件の特徴は、人員配置は主任/常勤(1)+常勤(1)+非常勤(1)という非常勤を含んだ3名体制で、24時間連絡体制・計画的な研修実施・実習協力体制・他法人共同の事例検討会等は、『連携でも可』という居宅介護支援には新たな概念を提示したことだ。

 現行の特定事業所加算は人口の多い都市部では算定しやすいが、地方では容易ではない。新たな特定(a)は、小規模の事業所にも算定しやすい要件である。つまり、厚生労働省は、経営実態調査の収支差率▲1.6%への対応策として、『小規模の事業所も含め、質の向上に対する取組みを評価する』という姿勢を示したといえる。

 Dの観点も厚生労働省から事務局案が提示された。逓減制にかかる14.2%は、担当するケアマネジャーにすれば、頑張っているのに報われない形である。また力量のあるケアマネジャーの場合には上限設定があることで、活動が制限される状況がある。事務局案は、ICTを活用する事業所や事務職員を配置する事業所の方が効率化につながっているというエビデンスを示し、ケアマネジメントの質の確保と介護支援専門員の負担に留意しつつ逓減制の適用を45件からとするものである。

 この案は経営者や現在やむを得ず逓減制にかかっている介護支援専門員には朗報に見える一方で、多くの介護支援専門員にとって実質的な業務負担の増加とはならないだろうか。今後適用された場合には継続的に実態調査等を行い、介護支援専門員が機能を発揮できる環境を守る取組みが必要だ。

 前回の報酬改定に参画させていただいた立場からみれば、これだけ居宅介護支援事業所の質の向上と経営改善に向けた事務局案を検討し、提示された背景に、厚労省の現場を慮る姿勢が伝わる。我々、居宅介護支援にかかわる者が、もし報酬改定を単なる財源分配の金目の話として終始するなら3年に一度の改定の意味が薄れてしまう。

 石山麗子(国際医療福祉大学大学院 教授)

(シルバー産業新聞2020年12月10日)

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