介護保険と在宅介護のゆくえ

「担当件数増やせ」でなく、基本報酬アップを/服部万里子(連載105)

「担当件数増やせ」でなく、基本報酬アップを/服部万里子(連載105)

新規コロナウイルスの感染者は増加の一途をたどり、年末までに感染拡大を抑え込むために北海道や大阪、東京では不要不急の外出自粛や飲食業の時間短縮などを要請した。医療従事者と同様に、介護サービス従事者は感染への不安と向き合いながら、最大限の感染予防策を講じ、利用者へのサービス提供を続けている。

【訂正】

 「シルバー産業新聞2020年12月10日」3面の連載「介護保険と在宅介護のゆくえ」文中で、
「『ICTを活用すれば45件まで減算しない』ので増やせ、と主張している」とありますが、
 正しくは、「『ICTを活用すれば44件まで減算しない』ので増やせ、と主張している」でした。
 訂正いたします。

コロナ禍で奮闘する介護事業者

 介護サービス利用者の世帯は独居が一番多く、介護になった理由のトップは認知症である。利用者の86%が75歳以上で、コロナ感染では重症化しやすい人々。コロナ禍で生きるためには訪問介護は不可欠である。
 国は要介護者であっても、市町村の総合事業として利用してもらうことを可能とする見直しを予定しているが、これが広がれば生活破綻の危険がある。

 前回改定で訪問介護の「生活援助」の回数を要介護度別に決め、それを超えるプランを作成したケマアネジャーは事前に市町村に届け出をし、地域ケア会議で必要性を証明しなければいけなくなった。
 要介護1は認知症の人が多く、独居で、生活援助の利用が多い人だ。1カ月26回の歯止めを作ると、1日1回の服薬管理や食事、買い物、調理が受けられないのは妥当なのだろうか。金銭管理ができにくい、火の不始末が心配、服薬管理のカレンダー型薬入れも正しく飲めないので毎日手渡しが必要な認知症の人がいる現状を、国は把握しているのか。

業務量増え続けるケアマネジャー

 厚生労働省は介護給付費分科会で、居宅介護支援の介護報酬改定の見直し案を示し、同サービスは2019年の経営実態調査で、制度開始以来20年間赤字となるデータも発表した。
 20年間赤字で継続できる事業はない。居宅介護支援事業所の9割はサービス事業所を併設し、事務所の家賃やデータ管理費用を振り分けているのが実態である。
 
 国は、現在月40件以上になると報酬が減算になるケアマネジメント数を「ICTを活用すれば44件まで減算しない」ので増やせ、と主張している。その理由は「ケアマネジャーが足りないから」だと言う。
 18年からケアマネジャーの受験者は激減しているが、ケアマネジャー試験累計合格者数は70万人以上いる。
しかし、居宅介護支援の仕事は敬遠されているのが現実だ。その理由は赤字続きであり、求められる業務量が増え続けているためだ。

 ケアマネジャーは在宅の利用者1人とケアマネジャー1人が契約し、ケアマネジメントを行う。業務の流れは、利用者ごとのアセスメントを行い、その人のこれまでの生活、疾病や医療、コミュニケーション、認知の状態、家族の状況や介護力、健康状態、食事や排せつ、移動、入浴などの生活機能、買い物や金銭管理、服薬、住まい、地域や近隣との関係、さらに虐待や引きこもり、医療的ケアの状況――を把握し、その現状と課題を把握する。

 次に医療機関や介護事業者と連携し、ケアプランを作成。必要なサービスを組み立て、介護サービスを事業者に依頼し、そしてサービス事業者を集めたサービス担当者会議を開催し、相互の連携をする。サービスが提供されてからも毎月、サービス利用者の家を訪問し、利用者の生活状況とサービスの適合性を把握、必要時にケアプランを見直す。入院すれば医療機関へ情報提供し、退院に向けた調整を行い、緊急対応や状態変化に対応し、家族の変化にも対応する。
ケアマネジャーの平均担当件数は常勤換算36.3人(厚生労働省介護事業経営概況調査)。この36.3人に、これだけの業務を行うのがケアマネジメントである。

 ほかにも、毎月ショートステイの予約やデイサービスの調整を行う。家族と話すために、家族が仕事をしている場合は土日に訪問する。さらに、末期患者の支援などが入る。この現実を知ってほしいと思う。
 
 介護報酬が低すぎるのが赤字の原因。にもかかわらず「担当件数を増やせ」とは、ますますケアマネジャーを追い詰めることになる。利用者、介護者を支えるケアマネジャーをやりたい仕事にしていくことが介護保険の未来を拓くのである。

(シルバー産業新聞2020年12月10日号)

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