施設サービスはどう変わっていくのか

入浴支援の施設基準/菊地雅洋(連載41)

入浴支援の施設基準/菊地雅洋(連載41)

 介護保険施設は介護報酬という公費を算定しながら経営されているため、高い職業倫理を持つとともに、当然のことながら法令を遵守して運営することが求められている。

入浴支援、週2回が標準という施設基準をどう考えるべきか

 介護保険施設は介護報酬という公費を算定しながら経営されているため、高い職業倫理を持つとともに、当然のことながら法令を遵守して運営することが求められている。しかし法令さえ遵守しておればよいということにもならない。暮らしを護る方法論は、社会的要請や利用者ニーズに対応して、法令以上の品質を模索する必要があるからである。

 例えば特養の入浴については、指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年3月31日厚生省令第39号)で、「第十三条2指定介護老人福祉施設は、一週間に二回以上、適切な方法により、入所者を入浴させ、又は清しきしなければならない」と定められており、週2回入浴支援ができていれば法令上の違反とはならない。そしてその基準に甘えて、現在でも利用者を一律週2回しか入浴させていない介護施設も多い。

 しかしこの基準はあくまで、人の暮らしとして最低限保障しなければならない基準であって、サービスの質をこれ以上下げれば、「人の暮らし」とはいえない劣悪な環境であるという意味である。つまり週2回の入浴しかできない暮らしは、人間として最低限の暮らしを担保するものでしかなく、十分な質の暮らしとは言い難いのである。むしろ世間一般的な入浴習慣を考えると、週2回しか入浴できないことはかなり質の悪い暮らしとさえ言える。

 今後10年程度の間に、特養の利用者の主流も団塊の世代の方々に移行していくことが予測されるが、それらの人々で週2回しか入浴していない人はほとんどいないだろう。その人たちが何らかの生活障がいを持ったことが理由で、特養に入所したときに、果たして週2回の入浴支援で満足してくださるだろうか。そう考えると施設サービス関係者は、この基準をクリアしているからよしとするのではなく、最低限の基準をクリアしているレベルでしかないサービスの質を、もっと利用者のために向上させるべきだと考える必要があるのではないだろうか。

 特養の利用者は、毎日いろいろと頑張る暮らしを送っている。私たちならたいした運動量でもない活動でも、高齢で身体の障がいを抱えた人たちにとっては大変な運動である。時には額に汗を流しながら、平行棒で歩行訓練をしている人もいる。そんな人たちが、運動後も汗を流せず、入浴回数が週2回に限られているという状態を想像してほしい。それが普通の暮らしといえるだろうか。

 国は現在、日本の介護を海外輸出しようと考えている。しかしそうした国の基準が、週2回しか入浴できないという水準で良いのだろうか。それは恥ずべき基準といえるのではないだろうか。そしてその基準さえ守っておれば良しとする介護施設もまた、恥を知るべきではないのだろうか。

 菊地雅洋(北海道介護福祉道場あかい花 代表)

(シルバー産業新聞2019年4月10日号)

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