施設サービスはどう変わっていくのか

人員配置基準緩和は人材対策にならない/菊地雅洋(連載44)

人員配置基準緩和は人材対策にならない/菊地雅洋(連載44)

 自民党の厚生労働部会が4月18日にまとめた提言では、タブレットやウェアラブル機器、センサーなどを使って安全性を確保することを前提として、「(介護施設等の)人員基準を緩和すべき」としている。4月23日に公表された、財政制度分科会資料の85頁でも「介護ロボット等の設備に応じて設備・運営基準や報酬に差を設ける」ことが提言されている。

 さらに根本匠厚労相も「より少ない人手でも回る現場を実現する」と語っており、介護施設の人材対策として、介護ロボット等を活用し、業務の省力化を図り、配置基準を緩和して一度に働く職員の数を減らしながら、職員を分散配置することで介護人材の絶対数不足に対応しようという考えが示され始めている。

 人間に替わることができる介護ロボットができるのならそれに越したことはないし、そうした介護ロボットをぜひ開発してほしいと思う。しかし現実には人に替わる介護ロボットは存在していないし、人の動作を一部援助する装着ロボット等も、使い勝手が悪いために、実際の介護の場で実用化しているとは言い難い。

 そんな中で見守りセンサーは、巡回しなくても済む空間や時間を作り出すことができる点では、夜勤を行う介護職員等の業務省力化につながっていると言ってよい。だからといって、そのことで人手を減らせるのかといえば、それは全く別問題である。

 見守りセンサーは、見守っている対象者の異常を感知・通報できるだけで、その対応はできない。夜勤時間帯の見回り回数が減ったからと言って、即夜勤者の数を減らしてしまえば、センサー反応があった時の対応に支障を来し、配置職員数を削られた分、配置されている職員の労働負担が増えることになる。労働負担が一時的に増えるだけならよいが、対応そのものが困難になるケースも出てくるだろう。それは即ち利用者のサービスの質の低下につながるだけではなく、対応が必要な人の命の危険につながりかねない。それは劣悪な介護環境でしかなくなる。

 配置規準を緩めたところで、業務が回らない以上、実際の配置職員を削ることは困難である。しかし配置規準が下がれば、それを根拠として、何が何でも職員数を削ろうとするブラック経営者が必ず現れる。そこで働く職員は、最悪の労働環境の中で、最低限の仕事しかできなくなるし、バーンアウトする職員も増え、介護人材は枯渇しかねない。

 どちらにしても人員基準緩和は、実際に働く職員に対するメリットは何もない。介護という行為を行う主体を人から機械に替えようとする状況を、戦時中の「竹槍突撃訓練」と揶揄する人もいる。それほど、テクノロジーが人に替わるということは現実的ではないのである。それが介護人材不足の処方箋であるという考えは大きな間違いなのである。

 菊地雅洋(北海道介護福祉道場あかい花 代表)

(シルバー産業新聞2019年7月10日号)

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