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特定処遇改善加算の算定へ向け注意したいこと/菊地雅洋(連載46)

特定処遇改善加算の算定へ向け注意したいこと/菊地雅洋(連載46)

 10月から算定できる、「介護職員等特定処遇改善加算(以下、特定加算)」に関連して、7月23日に19年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.2)が発出された。おおむね必要とされる疑義解釈が出揃った感がある。

 10月からの「介護職員等特定処遇改善加算」の算定・配分にあたり、本紙連載中の菊地雅洋氏(北海道介護福祉道場あかい花代表)は、職種間での賃金改善差に対する不満の最小化へ、加算の丁寧な説明と全職員のコンセンサスが重要だと説明。公平性のための「算定しない」選択肢は、人材流出等による経営危機を招くと警鐘を鳴らす。

 加算対象事業所はそのルールをしっかり確認して、算定漏れをせず、不適切請求とならないようにしなければならない。

 特定加算の配分については、経験・技能のある介護職員の範囲や、配分対象職種をどこまで広げるかなどの判断について、「各事業所の裁量により柔軟に設定」するとされたために、支給に向けて何がベストの方法なのか悩んだ事業経営者が多いことと思う。しかし、すべての職員に不満がない方法で配分支給することは不可能だ。そこで求められることは、新加算について職員すべてに丁寧にわかりやすく説明して、できるだけ多くの職員からコンセンサスを得ることだ。その際、この加算の配分が最終的にどのような形になろうとも、それは事業者や事業経営者の収益にはならず、あくまで職員の給与等の待遇改善の目的として全額が使われるということを理解してもらうことによってしか、不公平感や不満を最小化する方法はない。

 ところで診療報酬には特定処遇改善加算と同様の加算は新設されない。よって医療機関の職員にはその加算の恩恵は及ばない。そのため母体が医療機関である介護事業者の場合、今回の特定処遇改善加算によって、人によっては月8万円という大幅な給与改善がされることにより、医療機関の職員との格差は非常に大きなものとなる。これによって不平等意識が法人内に広がることを懸念して、加算を算定しないほうが良いのではないかと考える向きがある。これは医療機関との併設法人だけの問題ではなく、民間営利企業が母体の介護事業者も同様であり、この加算によって企業内で職員の給与格差が広がることを懸念し、あえて特定加算を算定しない方針に傾いている事業者がある。ほかにもこの加算の算定ルールが複雑すぎるとか、介護職員以外に配分を広げても支給ルール上配分額に大きな差が生じることが不公平感につながるとして、あえて加算算定をしないと決定する事業者が現れ始めている。しかしそういう事業者の方針は、事業経営の危機に
直結するものでしかない。

 現に働いている介護職員は、この加算による大きな給与改善を期待している。特に経験10年以上の介護福祉士であれば、月8万円の給与アップとはならないまでも、それに近い給与改善があると期待している人が多い。そんな人たちは自分の所属する事業所が加算算定せず、自分自身がその恩恵を受けられないと知った時に、がっかりするだけではなく具体的に加算の配分を受けることができる職場に移ろうとするだろう。特に自分には経験だけではなく、技能もあると考えている人はその傾向が強くなる。そうなると加算算定しない事業者から、経験と技能のある介護職員は、他事業者へ流出する可能性が高くなる。

 さらに介護福祉士養成校は、引く手あまたの現状で就職先を選ぶことが可能であるため、特定加算を算定しない事業者には学生を紹介しないと断言しているところもある。そうなると加算算定しない事業者には、今後有能な人材は寄り付かなくなる可能性が高い。よってこの加算を算定しない事業者は、人材不足から人員配置がままならなくなり、事業経営が難しくなるだろう。よってこの加算を算定しないという選択肢はないし、加算算定する場合も、加算率の高い「特定加算(Ⅰ)」を算定することが強く求められてくる。
 生産年齢人口が減り続けるわが国では、全産業で人手不足は深刻化の一途をたどる。そのため外国人が介護事業者に就職しやすくする法改正も行われているが、すべての介護事業者で人材が充足することは困難である。人を集めるためには、他の事業者との差別化を図ったうえで、魅力ある職場であることをアピールする必要があるが、その大前提は介護職員の給与改善につながる加算を算定しているのが当然という状態をつくることだ。それなくして他の何かをアピールしても、人材に魅力は伝わらない。医療機関等と一体的に運営している法人等の場合は、法人内の給与格差については、仕事の違いであると丁寧に説明し、給与の高い事業所への配転希望は能力勘案すればよいのである。そのシステムを同時に構築することで、給与格差の不満は最小化できると考えるべきである。

 この加算を10月から算定する場合、8月中に計画書の提出が必要で、その事務手続きをすでに終えている事業者が多いだろう。しかし誤った方法で算定・配分すると全額返還という事態もありえる。よって今一度ルールの確認を急いでいただきたい。間に合わない場合は9月末まで計画書提出、11月から算定という方法もありである。

 菊地雅洋(北海道介護福祉道場あかい花 代表)

(シルバー産業新聞2019年9月10日号)

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