施設サービスはどう変わっていくのか

終末期支援の備え/菊地雅洋(連載45)

終末期支援の備え/菊地雅洋(連載45)

 昨年の介護報酬改定の目的の一つは、「地域包括ケアシステムの推進」であり、そこではすべての介護事業者に終末期支援の充実が求められた。

施設関係者に求められる終末期支援の備え

 その背景には、我が国の死亡者数が2016年の130万人から、2030年には160万人に増加すると予測されていることがある。そのため看取り難民を生まないためにも、すべての介護施設が「看取り介護」を実践しなければならない。

 そもそも看取り介護は特別な介護ではなく、日常ケアの延長線上にあるもので、看取り介護ができないということはケアができないという意味になり、そんな介護施設があってはならない。であれば当然、施設職員には、終末期を迎えた人の身体状況の変化などの知識が求められ、それを身に着けるための教育も正しく行われる必要がある。

 例えば看取り介護対象者の意識が無い状態で、息をするたびに喉の奥でゴロゴロと音がすることがある。呼気・吸気両方で音がする場合が多いのだが、この状態を死前喘鳴(デスラッセル:Death Rattle)と呼ぶ。

 死前喘鳴は数時間ないし数日間で死に至る可能性があることを示す徴候である。このとき家族等から苦しそうだから、「痰を吸引してほしい」と言われることがあるが、吸引しても痰がない場合がほとんどであり音は消えない。死前喘鳴の原因音は喉の奥で唾液が溜まっていたり、気道の分泌物が鳴る音であったりするので、痰が原因ではなく苦しみも伴わないものなのである。よってのどの奥にチューブを差し込んで痰を吸引することはかえって苦痛を与えることになる。むしろ口腔内の唾液を綿などでとるだけにとどめ、顔を横に向けるなどの処置をとるだけにしたほうが安楽を阻害しない。

 そうしたことを事前に家族等に説明しているだろうか?死前喘鳴という状態がみられ、家族が痰の吸引を望んで訴えたときに、そうしたことを説明するのでは遅すぎる。それでは家族は十分理解と納得ができないので、不安が消えないのだ。そうであるからこそ対象者が看取り介護に移行する際に、終末期の身体状況として予測される状態については、あらかじめ説明しておくことが大事になる。

 そのほかにも死を目前にした人に起こる現象として、チェーンストークス呼吸や下顎呼吸などがあるが、それは苦しんでいる状態ではないことを説明し、原因や対処法をあらかじめ明らかにしておく必要がある。そのため僕は、「愛する人の旅立ちにあたって」というパンフレットを2010年に作成したが、その最新バージョンを、今年1月に日総研出版から上梓した「看取りを支える介護実践~命と向き合う現場から」に資料掲載している。

 それらを参考にしながら、それぞれの施設に見合った終末期支援の説明書式を作成していただきたい。それは終末期を含めて利用者の暮らしを護るために、介護施設が備えておくべき基本的な機能につながる書式なのである。

 菊地雅洋(北海道介護福祉道場あかい花 代表)

(シルバー産業新聞2019年8月10日号)

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