施設サービスはどう変わっていくのか

「自分が入所したい施設を目指そう」では施設介護は良くならない/菊地雅洋(連載43)

「自分が入所したい施設を目指そう」では施設介護は良くならない/菊地雅洋(連載43)

 「自分が入所したい施設づくりを目指そう」と言っている施設長が全国にたくさんいる。

 しかし、トップがそんなことを言っている施設が、利用者を週2回しか入浴させていなかったり、排泄介護を定時にしか行っておらず、しかもトイレにたどり着くまでに利用者を長時間廊下に並ばせていたりする。そんな施設に本当に自分が入所したいと思うだろうか。

 そもそも世のヒット商品はどのように生まれるかを考えてほしい。世の中の多くの人に受け入れられるヒット商品とは、作り手の価値観や好みはともかくとして、「顧客ニーズ」を徹底的に調査・分析し、それに合致するものとして生み出されるのである。自分の好みというレベルで物事を考えていては、多様なニーズに対応する柔軟性を失ってしまい、他者が受け入れられないことも多いのだ。

 そもそも仕事とはおもしろいものである反面、面倒くさい様々な作業が伴うものであり、自分の好みレベルで物事を考えていては、「この程度でもやむを得ないだろう」という妥協が生まれる。施設サービスも同じで、サービスの質を高めるために必要な労力や手間を考えたときに、それを最小限に収めたいという意識が働いて安易な妥協が生まれ、「自分が入りたい施設づくり」が無意識のうちに、「この程度なら自分の許容範囲である」という風に置き換わってしまうのである。

 介護施設にはびこる「世間の非常識が介護の常識」という状態も、自分の価値観レベルで考える感覚麻痺に起因していることが多い。自分だったら職員から家族と同じように馴れ馴れしく話しかけられても失礼とは思わず、むしろ親しみを感じられるのでそれでいいという感覚が、タメ口で利用者に接して恥じないプロになり切れない職員を作りだしているのだ。

 介護施設が目指すべきは、「自分が入所したい施設づくり」ではない。真に必要とされるのは、介護施設の利用者を顧客と正しく認識し、「顧客が選びたくなる施設づくり」である。そのために地域住民のニーズを徹底的に調査し、分析する介護事業経営が求められるのだ。「自分は~、自分が~」ではなく、「お客様は~、お客様が~」という視点が求められており、今、介護施設を利用している人・利用しようとしている人の生きてきた時代背景や生活習慣を見つめ、それらの人たちの真のニーズを徹底的に追求することこそが求められているのである。

 いまだに職員に対して、「自分が入りたい施設づくりを目指しましょう」なんて言っている施設のトップは、ボキャブラリーに欠けているだけではなく、事業経営者としてのセンスが問われかねない。いい加減に個人の感性に頼る「介護施設の品質管理」は、やめていただきたいものだ。

 菊地雅洋(北海道介護福祉道場あかい花 代表)

(シルバー産業新聞2019年6月10日号)

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