インタビュー・座談会

在宅復帰とその後も支える老健施設のために 全老健・東憲太郎会長

在宅復帰とその後も支える老健施設のために 全老健・東憲太郎会長

2018年度報酬改定からまもなく1年半を迎える。現在、国において制度改正へ向けた議論が本格化する中、本紙では団塊の世代が後期高齢者となる25年や、医療介護ニーズと必要人材のギャップが最大化することが予測される40年を見据え「介護保険施設がいかにその時を迎えるか」について、18年度報酬改定の振り返りと、次期報酬改定への要望等を特集する。厚生労働省社会保障審議会介護保険部会委員および介護給付費分科会委員も務める全国老人保健施設協会(以下、全老健)の東憲太郎会長に聞いた。

年度報酬改定の振り返り

 ――18年度介護報酬改定のポイントは、老健施設の定義に「在宅支援」が明記されたことと考えますが。
 東会長 その通りだ。老健施設の定義については、それまでも省令(厚生省令第40号、99年3月31日)に「在宅復帰のための施設」である旨が明記されていたが、改正介護保険法(17年6月2日公布)には「要介護者であって、主としてその心身の機能の維持回復を図り、居宅における生活を営むための支援を必要とする者に対し(中略)医療ならびに日常生活上の世話を行うことを目的とする施設」と「在宅支援のための施設」である旨が追加され、明記された。老健施設にとっては介護保険制度開始以来、最大と言えるほどの評価がいただけたと考えている。
 特養や介護医療院にとっても、それぞれの施設が目指すべき方向がより明確になったといえると思う。(表1参照)
 ――「在宅支援」とはどのようなことでしょうか。
 東会長 一般的な「在宅支援」とは、老健施設入所者のための退所前の在宅訪問や、退所後の訪問・通所リハビリ、短期入所療養介護サービス等の提供が挙げられる。
 ただ、それ以外に、報酬評価外であっても要介護認定前の(プレ)フレイルの高齢者に向けた介護予防支援も、地域貢献の一環として求められると考えている。フレイルに対する介護予防を老健施設が担うことで、その地域に対してかなり貢献できるのではないだろうか。
 ――率先して介護予防に取り組むことも範疇にあるということですか。
 東会長 その通り。たとえば、私が理事長・施設長を務める介護老人保健施設いこいの森(三重県津市、運営:医療法人緑の風)では、介護予防サロンの取組みとともに、(プレ)フレイルの高齢者に向けて「お買い物送迎サービス」を実施している。
 社会参加の低下し始めた高齢者の困りごととして多い「買い物」に注目し、通所リハビリ送迎時間外の車両を活用して一緒に買い物に行き、スーパーマーケットなどを往復送迎する。ドライバーは元気高齢者に担ってもらった。
 月一回はリハビリ専門職からフレイルの評価を受けることを要件とすることで、フレイルの対象者をいち早く把握し、介護予防サロンなどの利用につなげることにもなると考えている。
 介護予防利用者の評判は上々で、利用者には栄養状態や、ADL評価・認知症評価の維持向上などエビデンスもでている。
 こうした活動を通じて老健施設が地域の支持を得られることは非常に有意義で、全国の老健施設でも、地域貢献活動すなわち、地域を耕す活動を行う意味は非常に大きいと考える。
 ――老健施設が5類型に分けられましたが、どう評価されていますか。
 東会長 
18年度報酬改定で、在宅復帰や在宅療養支援の取組みの度合い(10指標の組み合わせによる「在宅復帰・在宅療養支援等指標」=最高90)を点数化し、点数の高い順に「超強化型(70以上)」「強化型(60以上)」「加算型(40以上)」「基本型(200以上)」「その他型(19以下)」として、介護報酬評価に差をつけた(グラフ参照)。在宅復帰や在宅支援の取組み状況により評価されるという流れも明確になった。
 18年度報酬改定以前は▽在宅復帰率▽ベッド回転率▽重度者要件――という高いハードルをクリアした場合に「在宅強化型」「在宅支援加算型」「従来型」の3類型で評価されていたことと比べて、現在の5類型は、地域性やその老健施設の強みや個性についても評価されやすいようになったと言える。登山に例えれば、以前は険しい一本道しかなかったものが、様々な登山ルートが設定され、最適なルートで高みを目指すことができるようになったようなイメージだ。
 それぞれの老健施設が「今よりも上位に」といった目標を立てて、着実にサービスの向上に取り組みやすくなったといえる。
 ――実際の類型の推移はどうですか。
 東会長
 私は会長公約として「全老健加盟の『その他型』をゼロにする」を掲げてきた。
 全老健としても「『その他型』老健 脱却セミナー」開催など、「その他型」老健施設の脱却支援に取り組んでおり、厚生労働省「介護給付費等実態統計」によると「その他型」が18年7月では7.9%であったものが、19年1月には5.4%と順調に減ってきている。一方「超強化型」は、同統計の同時期において10.3%から16.0%へと、こちらも順調に増加してきている。(グラフ参照)
 ――訪問リハビリでの「別医療機関の医師の診察」の経過措置延長が決まりましたが。
 東会長
 18年度報酬改定では、訪問リハビリのリハビリテーション計画作成で「事業所の医師以外の医師(適切な研修修了かその予定の医師)が診察し、情報提供を受けて作成した場合(1回20単位減算)」でも認められる制度が新設された。その経過措置の期限が19年3月末までとなっていたことについて、全老健として国に要望書を提出し、21年3月末まで2年間の延長が認められた経緯がある。
 18年12月の当協会の緊急調査(166施設回答)によれば、半数が「事業所の医師が診察」と回答したが、約25%が「やむを得ず事業所外の医師が診察」、残りが「利用者によりその両方」と回答する等、少なからぬ影響が考えられた。
 在宅支援に欠かせない訪問リハビリが提供できなくなるおそれがあっただけに、経過措置の2年間の経過措置は大変助かった。訪問リハビリの情報提供を頂く外部の医師に日本医師会が実施する「かかりつけ医研修」を受けて頂くにはどうするかなど、21年度報酬改定までの猶予期間での対応が求められる。
グラフ 老健施設における施設類型の推移

グラフ 老健施設における施設類型の推移

人材不足と生産性向上

 ――人材不足対策で、全老健が取り組む「介護助手」が注目されていますが。
 東会長
 私は人材確保対策には「攻め」と「守り」があると考えている。例えば「攻め」は、現在注目を集める外国人人材を介護現場に集めるような政策で、「守り」はICT、介護ロボット活用などで離職率を下げる政策ということだ。
 ただ、これらの政策は長期的には有効であっても、生産性向上への寄与度合いや、喫緊の課題である介護人材不足に対応する即効性という意味では厳しい。現時点では、介護助手の方が取り組む意味があると考えている。
 私は現場の施設長としても働いているので、介護職でなくてもできる周辺業務で現場の介護職が振り回されている現実を目の当たりにしたことがきっかけである。一方で、併設診療所の外来診療で地元の高齢者に接すると「時間はあるので生活費の足しになるような仕事があれば」というニーズを持たれていることもわかり、高齢者の(プレ)フレイル対策と介護人材不足対策の両面で「介護助手」は有効ではないかということになった。
 実際には週3回、1日3時間を程度で、▽配膳下膳▽掃除▽洗濯たたみ▽話し相手(傾聴)等の周辺業務を担っていただくものである。現在、私の老健施設では入所25人、通所7~8人の介護助手が従事してくれている。

21年度報酬改定に向けて

 ――全老健として国に税制改革に関する要望を続けられていますが。
 東会長
 老健施設は介護事業者であるとともに医療提供機関でもあるために、医療にかかる費用や薬剤費などの患者に転嫁できない負担が大きいということが背景にある。
 そのため税制に関する要望も、日本医師会等と連携しながら行っている。
 ――21年度報酬改定の展望はどうでしょうか。
 東会長 
まずは現在介護保険部会で議論されている制度改正の方向性を注視していきたい。論点にある負担と給付の関係や介護予防の在り方などで、老健施設が貢献できることは多いと考えている。
 最近ではケアプラン有料化や利用者負担2割負担など、利用者負担を高める議論が交わされているが、こうした方法は最後の最後であるべき。その前に検討すべきは過剰なサービス提供がなされていないか、また制度自体に無駄がないのかを検証していくことが重要である。
 たとえば要介護認定の方法。今後、認知症高齢者の増加が予測される中で、医師の意見書の様式を見直すことや、生産性向上の観点から、一次調査・認定審査会の効率化のためにICT活用を認めるなどの見直しを図る必要があるのではないか。
 地域包括支援センターの機能充実のため、増員の検討等もされ始めたが、地域包括支援センター委託を受けた法人が持つ介護施設の専門職が兼任できるように制度を緩和するだけで、費用や手間を掛けずに相当の効果が期待できる。
 全老健では、地域包括支援センターと老健施設が一体的に運営を行うことで、より効率的に地域包括支援センターの業務が行えるのではないかという仮定のもと、調査研究を進めたいと考えている。
(シルバー産業新聞2019年9月10日号)

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