インタビュー・座談会
全国老施協 平石新会長インタビュー ②「ICTと介護・福祉を融合」
特養、養護老人ホーム、デイサービスなどの全国組織である全国老人福祉施設協議会。6月11日の定時総会で新会長に選出された平石朗氏は、政府の公益認定等委員会から「不適正な支出」を指摘された組織の信頼回復を図るべく、様々な改革に取り組む。シリーズ2回目は介護現場の革新について。
最も大事にしたいのは培ってきた信頼
私は大学で哲学を専攻していたが、3年生の春休みに障がいをもった人が納屋に閉じ込められる生活を強いられていたニュースを目にした。哲学はどう生きるかを考える学問だが、どう生きるかよりも前に、生きることそのものを否定されている人がいることに衝撃を受け、いてもたってもいられなくなった。
障がい者を支援するサークルに入り、施設にアルバイトに行くなどして、自分の目で確かめていくうちに、排除や差別の背景にあるものを考えたり、どうすれば彼や彼女らが社会に参加できるかを自分なりに試したくなり、無認可作業所に飛び込んだ。仕事の口を探し、障がいのある人を連れていくと、向こうはびっくりする。「きちんと仕事はできますよ」と説明し、実際に働きぶりを見てもらうことで納得してもらえた。
そうして得たお金を彼らに給料として手渡すのだが、ダウン症の子が、そのお金を仏壇に飾った後、「はい、お小遣い」と両親に笑顔で手渡してくれたと聞いた時、自分の仕事を何よりも誇らしく感じた。最初は通いの施設だけだったが、親御さんの高齢化に伴って宿泊の施設をつくり、最終的には本人らの高齢化の問題にぶつかって、特養をつくることになった。気が付けば40年間、この仕事を続けている。
社会福祉法人に対する信頼は、営利法人とは違うものがあると思っている。私どもの法人も地元の人たちから多くの助けや寄付を得て、今に至っている。そうした信頼は先人たちや自分たちが何十年もかけて作り上げてきたものであり、最も大事にしたい部分である。だからこそ、襟を正し、誤解を招くことがないよう、組織を立て直していきたい。
障がい者を支援するサークルに入り、施設にアルバイトに行くなどして、自分の目で確かめていくうちに、排除や差別の背景にあるものを考えたり、どうすれば彼や彼女らが社会に参加できるかを自分なりに試したくなり、無認可作業所に飛び込んだ。仕事の口を探し、障がいのある人を連れていくと、向こうはびっくりする。「きちんと仕事はできますよ」と説明し、実際に働きぶりを見てもらうことで納得してもらえた。
そうして得たお金を彼らに給料として手渡すのだが、ダウン症の子が、そのお金を仏壇に飾った後、「はい、お小遣い」と両親に笑顔で手渡してくれたと聞いた時、自分の仕事を何よりも誇らしく感じた。最初は通いの施設だけだったが、親御さんの高齢化に伴って宿泊の施設をつくり、最終的には本人らの高齢化の問題にぶつかって、特養をつくることになった。気が付けば40年間、この仕事を続けている。
社会福祉法人に対する信頼は、営利法人とは違うものがあると思っている。私どもの法人も地元の人たちから多くの助けや寄付を得て、今に至っている。そうした信頼は先人たちや自分たちが何十年もかけて作り上げてきたものであり、最も大事にしたい部分である。だからこそ、襟を正し、誤解を招くことがないよう、組織を立て直していきたい。
組織力で介護現場の革新に取り組む
きっちりとやれば、やった分だけ誰かが救われる――。この仕事の醍醐味ではあるが、介護にたいへんさがあるのも確かである。それをどれだけ軽減していけるかが大事だ。ポイントは、ICTなどの最先端技術と介護・福祉の融合だと思っている。
例えば、車であれば、50年前は1台ずつの人手で組み立てていたが、今ではすべてロボットに置き換わっている。一方、介護は50年前と同じで人手が中心のままだ。そこを変えていきたい。職員をロボットやAIに置き換えていくという単純な発想ではなく、日本の製造業に倣い、業務フローの分析や使える技術を使って無駄をなくし、生産性を高めていくイメージだ。私どもの施設では、トヨタとリクルートが出資したコンサルティング会社から人材を派遣してもらい、月に1度、業務改善を徹底的に行っているが、社会福祉法人が企業から学ぶものは実に多いと感じている。
国の方でも、介護現場の生産性を向上させるために、介護現場革新プランを打ち出しているが、近代化された、時代に合った介護・福祉というものを自分たちの手でつくり上げていかなければ、時代に取り残されていくという危機感がある。
ただ、それを現実に進めていこうとすると問題が立ち塞がる。社会福祉法人はこれまで1法人1施設でやってきたため、大手営利法人のようにスケールメリットを生かした、大胆な投資やスピードある動きができにくい。では、どうするか。
そこで団体組織の出番である。各法人・施設がバラバラに取り組むのではなく、組織力を背景に、情報技術の活用や、現場にとって負担の少ない働き方などを提案し、時代に合った介護・福祉というものをつくりあげていく。(つづく)
(シルバー産業新聞2019年8月10日号)
例えば、車であれば、50年前は1台ずつの人手で組み立てていたが、今ではすべてロボットに置き換わっている。一方、介護は50年前と同じで人手が中心のままだ。そこを変えていきたい。職員をロボットやAIに置き換えていくという単純な発想ではなく、日本の製造業に倣い、業務フローの分析や使える技術を使って無駄をなくし、生産性を高めていくイメージだ。私どもの施設では、トヨタとリクルートが出資したコンサルティング会社から人材を派遣してもらい、月に1度、業務改善を徹底的に行っているが、社会福祉法人が企業から学ぶものは実に多いと感じている。
国の方でも、介護現場の生産性を向上させるために、介護現場革新プランを打ち出しているが、近代化された、時代に合った介護・福祉というものを自分たちの手でつくり上げていかなければ、時代に取り残されていくという危機感がある。
ただ、それを現実に進めていこうとすると問題が立ち塞がる。社会福祉法人はこれまで1法人1施設でやってきたため、大手営利法人のようにスケールメリットを生かした、大胆な投資やスピードある動きができにくい。では、どうするか。
そこで団体組織の出番である。各法人・施設がバラバラに取り組むのではなく、組織力を背景に、情報技術の活用や、現場にとって負担の少ない働き方などを提案し、時代に合った介護・福祉というものをつくりあげていく。(つづく)
(シルバー産業新聞2019年8月10日号)