千田透の時代を読む視点

「介護職員の適正な給与水準」/千田透(連載69)

「介護職員の適正な給与水準」/千田透(連載69)

 労働生産人口が減少し、人手不足が深刻な状況に陥っている中で、こうした処遇改善策を積み重ねてきたことは評価できるが、一つの指標となっていた全産業平均を上回る賃金水準の介護職員が出てくると、今度は「介護職員の適正な給与水準はどこなのか」を考えなければならないステージに入っていくだろう。

 その時に、根拠ある議論をしていくためには、処遇改善にかかる費用を基本サービス費の中にきちんと組み込み、労使間で賃金を決定していく姿に戻していく必要がある。介護報酬は法律上、「平均的な費用の額を勘案の上、厚生労働大臣が定める」ことになっている。人件費も含め、実際に必要となる様々なコストを勘案して設定されるのが3年に1度の介護報酬単価であり、それを元に労使間で取り決められるのが、「介護職員の適正な給与水準」になるはずである。

 仮に予定通りに消費税が引上げられなかった場合、特定処遇改善加算で示されている「月額8万円」や「年収440万円」といった金額は一体何だったのか、本来、介護報酬で勘案されるべき人件費はいくらになるのか、そうした疑問が噴出することになる。

 また、処遇改善加算によって「適正な給与水準」を考えるとなると、バランスを考えて、ケアマネジャーが看護師などの他の職種についても「適正な給与水準」を考えなくてはいけなくなる。そうした議論には無理がある。

 そもそも、処遇改善加算は「例外的かつ経過的な取り扱い」として設けられたものであり、恒久的な仕組みにする考えはなかったはずである。

 特定処遇改善加算の創設によって、全産業平均を上回る賃金水準の介護職員が出てくることを契機に、「介護職員の適正な給与水準」について、根拠をもって議論できる形に戻していくことが必要だろう。

 千田透(全国生活協同組合連合会 常務理事)

(シルバー産業新聞2019年5月10日号)

関連する記事

2024年度改定速報バナー
web展示会 こちらで好評開催中! シルバー産業新聞 電子版 シルバー産業新聞 お申込みはこちら

お知らせ

もっと見る

週間ランキング

おすすめ記事

人気のジャンル