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八王子市の総合事業で 「食楽訪問」 を開始/宮下今日子(連載76)

八王子市の総合事業で 「食楽訪問」 を開始/宮下今日子(連載76)

  高尾山や丹沢、奥多摩の山並みを眺めながら、訪問を楽しみにする管理栄養士さん。ジャイアントのクロスバイクで山坂を越えていく言語聴覚士(ST)さん――。東京都八王子市で在宅訪問の新事業に取り組む面々だ。

 八王子市では、介護予防・日常生活支援総合事業のうち「訪問型短期集中予防サービス」の「食楽(しょくらく)訪問」を18年度から始め、19年度から本格的にスタートさせた。口腔ケアと栄養改善に力を入れた訪問型Cの取り組みは全国でも珍しい。

 同市は人口約57万人で、65歳以上を対象に地域分析調査(2016年健康とくらしの調査)をしたところ、虚弱者割合が3.6%(大規模市平均3.1%)に対して、口腔機能低下者の割合は17.6%(約2万6000人)にも上った。そこで市は口腔ケアと栄養改善に着目。活動の基礎である「食べること」を専門職が早い段階から支えることで、社会とのつながりを失うことから身体的な衰えに繋がる「フレイル・ドミノ」を防ぐため、最終目標を社会とのつながりに置いている点が特徴だ。

 「食楽訪問」の流れは、まず、市内17カ所の地域包括が、要支援認定者と事業対象者から「対象者確認シート」でリスクを把握し、その後、該当者宅をケアマネと言語聴覚士が訪問して初回アセスメントを行う。その後、担当者会議を経て担当ケアマネがプランを作成。定期的にモニタリングし、評価会議にかけて3カ月後のサービス終了を目指す。

 チェックシートは検討会で独自に作成したもので、栄養状態、口腔機能(嚥下機能)、口腔衛生の3項目とし、訪問は管理栄養士、言語聴覚士、歯科衛生士の3職種が担当。言語聴覚士は嚥下機能の低下に着目して、高齢者に多い誤嚥性肺炎などを予防するだけでなく、閉じこもりが嚥下機能の低下を招くことから、活動量を上げてもらうよう、地域に出かける場所も提案する。歯科衛生士は、義歯の不具合ばかりでなく、口臭が人との交流を避ける要因になることから、交流に繋がることも視野に入れる。

 管理栄養士は、奥さんを亡くして食欲が低下していた男性が、共に調理することで料理を覚え、見違えるように元気になった、と嬉しそうに話す。成果は専門職のやる気を引き出すお薬だが、18年度に実施した20件のうち、こうした好事例はたくさん生まれている。

 歯科受診につなげて義歯を調整したところ、姿勢が良くなり、顔つきもキリッとし、念願の居酒屋へ行けたという70代男性。旦那さんを亡くした喪失感から食欲が低下していたが、丁寧な傾聴を通じて、本人のカラオケ教室に通いたい気持ちに気づいたSTが、カラオケ教室を提案し、元気になった80代女性…。カラオケはもちろん、声を出すことで嚥下機能を高めるが、STがカラオケ教室まで提案するのは驚きだ。リハ職が生活支援を視野に具現化している好例と言える。

 事業実施の3カ月後には、「やる気スコア」と「生活の広がり(LSA)」の2項に分けた独自のリストで効果を検証した。栄養や要介護度の改善ではなく、寝室から別の部屋へ、さらに庭へ、家の外へ、町外へと活動の広がりを聞く内容で、やる気も活動範囲もアップし、「食べることをきっかけとして社会参加に繋がるなど、良い成果が出ている」と同市福祉部高齢者福祉課の担当者は話している。

 ケアマネからは、利用者に気持ちの向上が見られたことから、サービスの拡充に期待するとの声がある。また、リハビリ職をはじめとした専門職に事業の目的や効果が広がることで、より多くの高齢者の介護予防に繋がる可能性が広がりそうだ。

 宮下今日子

(シルバー産業新聞 2019年5月10日号)

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