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ヘルパーの買物・調理への不安が解消 在宅栄養/宮下今日子(連載90)

ヘルパーの買物・調理への不安が解消 在宅栄養/宮下今日子(連載90)

 2回目は岐阜県岐南町にある総合在宅医療クリニック(医療法人かがやき、市橋亮一代表)に勤務する、管理栄養士の安田和代さんのケースを紹介したい。

在宅訪問の管理栄養士に聞く② 安田和代さん

 同クリニックは在宅診療に力を入れ、多職種を抱えているが、その一部門が食事支援。生活習慣病や終末期の食事面を支える。特に食べられなくなった終末期でも「きずなとしての食支援」を提唱し、最期まで食べる楽しみを大切にしている。「食楽支援」の取り組みは、言語聴覚士、歯科衛生士と3人チームで行っている。

 今回は病院を退院した糖尿病など複数の疾患がある利用者に、管理栄養士が関わった事例。
 
 85歳女性のMさんは、2型糖尿病、心不全、レビー小体型認知症、動脈硬化症、糖尿病腎症と複数疾患を抱える。娘と同居だが、日中独居で、通所には行かず、ベッド上で過ごしている。訪問診療が月2回、訪問看護が週1回、訪問栄養食事指導が月1~2回。訪問介護は毎日午前午後に4事業所のヘルパーが入っている。

 ケアマネから連絡をもらった安田さんは、退院直後から訪問栄養を始めた。医師からの指示は、嚥下障害と糖尿病食。まず、食事内容・摂取水分量の把握、食事や水分の摂取状況の確認の把握、車いすでの体重計測を行った。次に、安全に食べるための食環境の整備(食べ方・食べさせ方・食形態の見直し)、家族・ヘルパーへ治療食指導を行い、さらに好きなものを食べることを奨励した。

 Mさんのように、複数の事業所のヘルパーが介入している場合、どの事業所のヘルパーも同じケアが行えることが重要である。そのためには情報共有の仕方が “鍵” となる。

 このケースでは、ケアマネを通してSNSで連携できた点が大きかった。例えば、水分のとろみに関する変更や、食べさせ方など、わずかな変更内容でも、迅速に、かつ確実に全事業所のヘルパーに伝えた。それにより同じケアが行え、利用者の安心、安全に繋がった。

 また、在宅で糖尿病や腎臓病などの食事指導が入った場合、買物や調理支援を行うヘルパーは、何を買ってきて、どう調理したらよいのか悩むことがある。さらに嚥下障害がある場合は、本人が希望する食材が安全かどうか判断できず困ってしまう。その時こそ、管理栄養士はヘルパーに、医師の指示と共に具体的な食材や調理方法を伝えることができるのである。管理栄養士とヘルパーが連携することで、ヘルパーは安心して確かな食支援を行うとができる。
 ある時、ケアマネから「娘さんが母の腎臓病のためにさらに制限が必要ではないかと悩んでいる」と相談があった。さっそく訪問し、娘さんの思いを十分傾聴しながら、食事制限の内容を次のように整理した。今、行う必要があること、必要がないことを具体的に伝えた。

・塩分

 減塩のためには、毎食おにぎりにふりかけを混ぜるのはやめよう。

・タンパク質

 肉や魚をたくさん食べているわけではないので、制限は特に必要ではないが、褥瘡改善のためにも摂ることが必要。

・糖質

 糖質に偏ることは好ましくないので、麺ばかり続くことはよくない。

 このように具体的に方法を伝えると、娘さんはほっとし、肩の荷が下りたそうだ。

 安田さんは「栄養士は食事を管理する人、制限する人という印象をもたれがち。でも私は逆に食べることを楽しんでもらいたい。食支援を “食楽” というキーワードで考えている」と話す。

 Mさんはウナギが好物で、「糖尿があっても、毎日じゃなければ、時には食べてもいい」と伝え、それが本人と家族の喜びに繋がった。これがまさに “食楽” 。

 Mさんは退院して1年以上が過ぎたが、食事摂取量も増え、安定した生活を続けている。食事を楽しむゆとりが本人の食欲や幸せに繋がったのだろうか。

 専門職の根拠ある説明で、介護スタッフも自信をもって調理や食事介助が行える。ケアマネは、利用者の “生活” に寄り添っているからこそ、娘さんの悩みに気付き、早めに管理栄養士に声をかけてくれた。「在宅訪問のスタッフはジグソーパズルのピースの1つ。みんなでピースを持ち寄って全体が見えてくる」と普段から感じているそうだ。
 左は歯科衛生士の合掌かおりさん、右は言語聴覚士で管理栄養士の石川明奈さん(台湾にて)

 左は歯科衛生士の合掌かおりさん、右は言語聴覚士で管理栄養士の石川明奈さん(台湾にて)

 宮下今日子

(シルバー産業新聞2020年7月10日号)

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