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東京都国立市の総合事業 住民主体による通所型サービスBを展開/宮下今日子(連載80)

東京都国立市の総合事業 住民主体による通所型サービスBを展開/宮下今日子(連載80)

 東京都国立市は、介護予防・日常生活支援総合事業で、住民主体による通所型サービスBを2017年7月から展開している。全国的にも少ない住民主体による同サービスだが、このほど2周年を迎え、市長の永見理夫氏、介護保険運営協議会会長の林大樹氏、健康福祉部長の大川潤一氏、同高齢者支援課長の馬塲一嘉氏も参加して、運営主体の市民と一緒に祝杯を挙げた。

 「ひらや照らす」(運営:ひらやの里、大井利雄代表)は、住宅街に佇む平屋の古民家で、10畳くらいの洋室と、床暖房の和室(約10畳)の二間を中心に、懐かしい匂いのする台所や縁側もあり、我が家のように過ごせる居場所だ。

 大都市圏では、同サービスを提供する場所の確保が課題だそうだが、地域のために自分の家を使って欲しいと遺言した市民が、死後、自宅を市に寄贈したことで実現したそうだ。行政は寄贈された家屋をどうするか検討し、近隣自治体、武蔵野市のテンミリオンハウスを視察したりして、通所型サービスとしてのあり方を模索した。

 家賃を免除し、光熱費、活動費は市が負担し、運営は市民がボランティアで行っている。週4日、地域に開放し、参加者は低料金で様々なプログラムに参加できる仕組み。驚いたのは、運営スタッフが多いことで、現在、80人近いという。「運営応募について市内で活動する団体に働きかけたところ、準備会に6団体ほどが集まり理念等を討議提案した。当初は15人くらいだった」と大井代表は振り返る。

 決して平坦な道のりではなかった。市独自で育成したシニアカレッジの卒業生や、社協、包括なども巻き込み、今では地域の学生や外国人留学生らも関わっている。市民が提供したレコードびっしりの部屋があったり、写真や似顔絵コーナーもある。運営スタッフの明石秀雄さんは、5年間で250人もの似顔絵を描いてきた。喜ぶ顔をみるのが何よりの楽しみ、と話していた。

 国立市は早くから「総合事業」をスタートさせたが、当初、市民向けに事業説明をしたところ「素人に介護なんてやって欲しくない」「自治会のない地域に住みたくて、ここ国立市に来た」と言われ、包括的な地域づくりの難しさを痛感した、と馬塲課長は話す。国立市だけでなく、国が描く地域包括ケアシステムが、特に都市部において如何に難しいかを示している話だろう。

 大井さんは「絆の会」の代表も務め、国立市の市民活動を紹介してきた。同会は、公民館と高齢者支援課の共同講座「みんなで考えよう!地域ケアの未来?孤立しない・させない高齢社会を支える地域の絆づくり」に参加した市民を母体に、13年2月に誕生した市民グループ。毎月、ひらや照らすに集まり「絆だより」を発行している。

 大井さんとスタッフの小出聡さんは、介護保険運営協議会の市民委員を務めていて、市の介護保険制度を決める重要なこの会議内容を市民と共有しているのである。これまで、同会議の議事内容を絆だよりに載せたり、「認知症政策大綱」「地域支援事業」等をテーマに行政の方との勉強会を開いてきた。8月に開かれた「地域支援事業」の勉強会では、参加者の一人から「インセンティブ交付金で、我々の居場所づくりの参加率を上げたり、成果が出れば、交付金を活用できるのか?」という質問があった。市民の率直な疑問に、行政は数値を示し、丁寧に説明していた。

 行政と市民の風通しの良い関係が、自然と人が集う、居心地の良い場所になる。難しい住民主体の運営を考えるヒントが国立市には詰まっていると感じた。

 宮下今日子

(シルバー産業新聞2019年9月10日号)

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