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東京都国立市② 65歳の壁って何? 当事者の思いから市が動く/宮下今日子(119)

東京都国立市② 65歳の壁って何? 当事者の思いから市が動く/宮下今日子(119)

 「障害者総合支援法」は、第7条で「他の法令による給付等との調整」を位置づけ、例えば障害福祉と介護保険に類似のサービスがある場合、他法である介護保険を優先し、「自立支援給付」は「行わない」と定めている。つまり、障がい者が65歳になった時、介護保険に移行するように書かれている。いわゆる「介護保険優先原則」だ。

 ところが、これをめぐっては重度障がい者らを中心に反対を唱え、各地で複数の裁判(浅田訴訟:岡山市を提訴、天海訴訟:千葉市を提訴ほか)が起きている。浅田訴訟では、弁護士は7条の解釈に踏み込み、介護保険法と障害者総合支援法の相違点を主張するなどし、1審、2審で勝訴している。国立市ではこの問題をどう解決したのかを紹介したい。

2つのサービスの違い

 介護保険サービスと障がい者サービスの違いに、重度障がいを抱えながらも、長年、国立市の自宅で暮らし続ける三井絹子さんは敏感だ。制約が多い介護保険サービスによって「人が来たらお茶を出すことも、おせちを作ることもできないなら、私たちは仲間や家族と交流することもできない。当たり前に暮らす、普通に生活することが何故できないのか」と切々と訴える。障がい者サービスで実現した「自分らしい生活」が、介護保険サービスに移行することで失われることがあってはならないと、三井さんは訴える。

時間をかけて市と協議

 「介護保険が優先された場合に、自分がどういう生活になるのか、不安で仕方なかった」と三井さん。その一心で、厚労省や国立市と交渉を続けた。要望は「介護保険については、65歳になっても、本人が望む場合は、障がい者サービスのみによる介護サービスを使えるように、これまで通りの運用をお願いする」というもので、介護保険サービスにない場合は障がい者サービスを使ってよいという併用型ではなく、「介護保険は使わないこと」を求めた。
 「私は、自分が介護保険適用になる3年前から国立市と話をしてきた。介護保険では足りない部分は障がい者サービスを使えると言われ、それでいくしかないのか?と悩んだ時もあった。でも嫌だという気持ちが強かった」。三井さんは65歳になっても、介護保険の認定調査を受けず、それまでの障がい者サービスを使った。

本人が申請しない限り、介護保険サービスは適用しない

 三井さんらは、2019年の9月に行われた議会で、議員を通じてこの問題を質問してもらった。議員は「障害福祉をずっと使ってきた当事者の方々の多くが65歳を前にして、介護保険へと切りかえることを行政から要請されるのではないかという不安を抱えておられる」と発言。「しょうがいしゃがあたりまえに暮らすまち宣言」と同条例のある市に突き付ける形になった。

 これに対して健康福祉部長の大川潤一さんは「障がい者が65歳になっても、今まで通り障がい者サービスを希望する人は、そのまま継続する。本人が申請しない限りは、介護保険サービスは適用しない」と発言した。

介護保険サービスの強制なし

 国立市の決断について三井さんらは、「介護保険が重度障がい者に合わないことを伝え、介護保険を強制しないことを議会で決を採ってくれたことは、私達にとって大きな出来事だった」と話す。行政が制度を押し付けないことに安堵した。
 市長の永見理夫さんは、「介護保険の要介護5のサービスでは障がい者の活動的な生活を組立てられない」と言い切る。国立市行政の理解は、当事者との話し合いの積み重ねを経ているが、続けて永見さんは「障がい者運動があって行政が変わってきた。これは間違いない」と力説する。

行政が制度を誤解?

 三井さんは「全国公的介護保障要求者組合」を作り、全国からの相談に応じているが、他の市区長村の当事者は65歳になることを怯えていると言う。
 そもそも行政や事業者は、重度訪問介護と介護保険の訪問介護との本質的な違いを理解せず、サービスを縮小しているケースが多くあるという。実は、東京都が「障害サービスに介護保険を準用して考えてよい」と事業者に伝えていたことを三井さんらは突き止めた。都は謝罪し、各区市町村障害福祉主管課長宛に「重度訪問介護の適切な運用及び支給決定について」という通知を出し、介護保険を準用しない旨を伝えたという。昨年の3月19日の話である。
 もともと重度訪問介護の原型は、三井さんの兄、新田勲さんが長年の闘いの中で勝ち取った権利であり、制度の不理解に三井さんらは憤る。
 次回は、障がい者の施策から認知症の独自施策に繋がった例を紹介したい。
(シルバー産業新聞2022年12月10日号)

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