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こうほうえん 東京の介護ニーズを支える地方法人

こうほうえん 東京の介護ニーズを支える地方法人

 東京都の介護事情をみると、地方の社会福祉法人や医療法人の相次ぐ進出は大きな特徴の一つといえる。鳥取県米子市に本部を置く社会福祉法人こうほうえんはその代表例だ。225事業を展開し、2300人もの職員を抱える同法人が、500km離れる東京へ出てきた理由は何か。廣江晃理事長に聞いた。

鳥取県の人口ピークは昭和60年

 ――東京へ進出した理由。

 東京都で事業展開を始めたのは2007年。北区の「ヘルスケアタウンうきま」で、115床の特養、デイサービス、ショートステイ、障がい者就労継続支援、保育園などの複合拠点を開設した。

 理由は、鳥取県では人口減少に伴い、今後は介護などのニーズも減少することが見込まれるためだ。県の人口は1985年(昭和60年)の61万人がピーク。国内全体でみても人口減少期となって久しいが、鳥取県はその20年以上前から減少を続けており、昨年3月には戦後初めて55万人を割った。

 人口動態からも、10年後、20年後を見据えた時に、県内だけでは事業展開が非常に限られてくることは明白だった。高齢化率は高まっていくが、人口そのものが減ってしまう中では、高齢者がそう増えることもない。一方で、首都圏の高齢者の数は急速に増えている。25年に全て後期高齢者となる団塊の世代も、地方から都市部へ移り住んだ人が非常に多い。鳥取で培ったサービスで、東京へ出ていくのも面白いと思った。

事業拡大のボトルネックは人材

 ――東京での事業展開について。

 想定していた以上に人材確保が難しい。鳥取県の介護関係職種の有効求人倍率2.5倍(厚生労働省「職業安定業務統計」20年3月時点)に対して東京都は6.2倍(同)。それでも人口自体が多いので、求職者が全くいないわけではないのだが、良い人材を集めるのに時間がかかると感じる。パート職は比較的応募も多いが、正職員の雇用が特に難しいのも都市部の特徴ではないか。

 東京の介護事業は現在、「ヘルスケアタウンうきま」を含めて6カ所に複合施設を展開しているが、事業拡大のボトルネックはやはり人材。サービスの質を落としてまで事業を拡大したいという考えはないので、採用・研修にしっかりと力を注ぎながら、地道に進めていくほかない。

 経営面でみると、介護は保育事業よりも収益性が低いのが現状だ。単純にやり方がよくない部分もあるのかもしれないが、地方と比べて東京の介護は経営の難易度がより高いと感じている。介護保険には地域区分が設定されているが、よく指摘されるように、上乗せ割合がまだ十分でない。一方で、保育事業はニーズや単価でみても東京は恵まれていた。今後少子化が進めば状況が変わるかもしれないが、今のところは保育事業が柱となり、介護などの他事業の展開を支えてくれている状況だ。

 ――介護サービスのこだわりは。

 昨今の介護報酬改定でも「自立支援・重度化防止」が重視されているが、当法人もこれまで自立支援に力を入れてきた。米子市の特養では、入所者の3割以上で要介護度が改善した例もある。具体的には、「口から食べること」「トイレで排泄をすること」が自立支援を目指すために重要で、特に力を注いでいる。胃ろうやおむつをつけっぱなしにしていたほうが労力はかからないかもしれないし、今の介護報酬の仕組みでは要介護度の改善により施設の収入は減ってしまうが、自立支援のケアには今後もこだわっていきたい。

東京の介護を支える一端に

 ――今後の東京での事業展開。

 繰り返しになるが、人材確保がボトルネックになるので、都内で公募があったときに都度検討していくほかない。サービスの中身でいえば、在宅サービスで新しいチャレンジが何かできないか検討している。

 例えば、訪問介護でセンサーやビデオ通話などのICTを活用することで、より長く在宅での暮らしを支えられるようになるかもしれない。もちろんICTに限らないし、難しいことではなく、宅配サービスの使い方を教えるなどちょっとしたひと工夫で、利用者の暮らしはかなり変わる。

 介護離職などの問題に象徴されるように、東京ではまだニーズに対して介護サービスの供給が不足している。われわれも、質と量の両面でその供給の一端を担えるようにさらに取り組んでまいりたい。

<法人概要>
 1986年、医療法人養和会広江病院(現養和病院)が50年、地域に根付いた地域への恩返しとして廣江研氏(現会長)が設立。鳥取県米子市に本部を置く。2007年4月、北区に複合施設「ヘルスケアタウンうきま」を開設し、東京都での事業をスタート。現在は鳥取と東京で35拠点、225事業を展開。職員2300人。2020年7月に廣江晃氏が理事長に就任した。

(シルバー産業新聞2022年1月10日号)

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