地域力発見

“ストーリーブランディング” をご存知ですか?/宮下今日子(連載82)

“ストーリーブランディング” をご存知ですか?/宮下今日子(連載82)

「あなたは、人生の最後に何を食べたいか考えたことはありますか?ちょっと想像してみてください。・・・」

ジェラートに寄せる想い

「あなたは、人生の最後に何を食べたいか考えたことはありますか?ちょっと想像してみてください。/(中略)/でも、いま想像したものが、人生の最後の食事として食べられるとは限りません。/嚙む力や、胃腸が弱まり、流動食しか食べられないかもしれません。/(中略)/25年前、私の夫が、病に倒れ、普通の食事がとれなくなった時、最期まで口にすることができたのは、氷やアイスクリームでした。大切な人に、少しでも大好きなものを食べさせてあげたい。きっと介護をしたことがある人は、だれでも思うことでしょう。/(後略)」
 こう書くのは、神奈川県厚木市で「暮らしの保健室あつぎ」を昨年秋に立ち上げた島﨑菜穂子氏。暮らしの保健室は、厚労省の在宅医療連携拠点のモデルにも選ばれ、全国的な広がりをみせている。しかし、非営利のこうした活動は運営資金の捻出が難しい。そこで、今回は立ち上げのヒントを探ってみた。

 島﨑氏は、立ち上げ時に、中小企業診断士のアドバイスを受けた。そこで採用した方法が「ストーリーブランディング」。彼女の言葉にできない溢れる想いを、専門家が可視化したのがこの文章で、そのまま販促ツールの一つになっている。

 「ストーリーブランディング」は、創業者の思いをストーリーにして訴求する手法。お客は語り手に共感することで親近感を覚え、協力的な意識も生まれる。島﨑さんの例では、自分の夫を若くして癌で亡くし、最期の一口がジェラートだったことがストーリー。ジェラートはブランドとなり、非営利の暮らしの保健室を支える運営資金となった。
 島﨑さんの思いは、最期までその人らしく暮らせるまちづくり。それには、住む人も働く人も能動的に作っていくまちでないとできない、と話す。

 この思いに共感した人々が集まり「サポーター制度」ができあがった。現在、サポーターは有償、無償を含めて50人に増えている。保健室で相談に応じていた加納隼人氏(薬樹薬局 厚木水引ストアマネジャー)は、ここでは一人ひとりにゆっくり向き合えるのが魅力と話す。会社の仕事として関わっている。ジェラートに使う野菜や果物は近くの農家が卸していて、その野菜の下ごしらえは、近くの通所、コミュニティハウスあゆらす(代表金子みどり)の利用者がお手伝いしている。こうしたソーシャルビジネスは地域の共感やアイデアに支えられていると感じた。

 専門家に頼むとお金もかかると敬遠しがちだが、実はコンサル側も福祉業界への関心が強いそうだ。今回支援した「プロボネット」は、中小企業やNPOなどをボランティアで支援する団体。島﨑さんを支援した佐藤一樹氏は「営利事業と非営利事業が相乗効果を発揮するようなビジネスモデルスキームを開発するためには、中小企業診断士の支援が必要」と語る。佐藤氏が島﨑氏の得意、不得意な部分をヒアリングして、企業戦略が仕上がったようだ。

 また、19年7月から中小企業診断士の実務従事(新規及び更新の際の登録要件)の対象が、医業、社会福祉法人、NPOに拡大した。つまり中小企業診断士のアドバイスが医療、介護業界でも無償で受けられる可能性ができた(詳細は中小企業庁HPの中小企業診断士関連情報を参照)。

 起業家と専門家がマッチングできる機会も広がっているようだ。

 宮下今日子

(シルバー産業新聞2019年11月10日号)

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