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外国人介護職員の問題を現場から考える/宮下今日子(連載79)

外国人介護職員の問題を現場から考える/宮下今日子(連載79)

 東京都介護福祉士会(永嶋昌樹会長)は、2012年から「国際協力委員会」(18年より国際事業部に名称変更)を設置して、海外の介護事情や人材等に関する研究を重ねてきた。08年のEPA介護職員受け入れから19年の特定技能制度創設まで、一連の流れをみてきた永嶋氏は、2年くらい前からこの問題への関心が高まってきたと話す。

 厚労省の調べでは、19年1月時点で、特養、老健を中心に、EPA介護職員は全国677カ所で3165人が働いている。全国の特養、老健の合計は1万2000カ所くらいなので少数だが、一方で留学生の数は、16年は257人、17年は591人、18年は1142人と伸びている。なお、特定技能では4月にフィリピンで試験を実施し、113人が受験。今後は他の国にも広げていく計画だ。

 こうした情勢の中、同会では、外国人介護職員や留学生を招き、多職種との交流会を開いた。

 中国から技能実習生として来たゴ・アレイさんは今年の4月に来日し、現在は武蔵村山市のサ高住で働いている。日本語レベルはN2で、現場の申し送りも70%は理解できる、と話す。将来は、介護福祉士資格を取得して、ケアマネジャーになり、長く日本にいたいと夢を語った。モンゴルから技能実習生として来日したパトエルデネ・ダワージャラガルさんも現在は板橋区の有料ホームで働いているが、日本で実績を積み、将来は故郷に帰って仕事をしたいそうだ。ベトナム人の留学生は、同国の短大で看護学を学び、来日。日本語学校で1年間学び、現在は医療介護専門学校の1年生。立川市の特養でアルバイトをしている。彼女達から見ると、日本は介護サービスの種類が豊富だと映るようだ。

 悩みは、言葉が最も多く、スタッフは親切だが、日本語を学ぶ学校や地域の勉強会などはないことだそうだ。また、生活面では家賃が高く、月4万円が限度と話していた。

 すでにベトナム人技能実習生2人を受け入れている障がい者施設の職員は、「水分介助ができるようになったので、今は入浴介助を教えている。少しずつだが職員が助かるようになってきた」と言う。しかし、日本語は聞き取りが難しい様子で、そのためケアの仕方が伝わらず、腰痛の原因になったこともあると指摘。指導も勤務時間外になることもあり、手順マニュアルの作成や、日本語学校に通うなど、もっと支援が必要だと訴えた。

 また、雇用してもすぐに国に帰られては困るという意見もよく出るが、「日本で介護福祉士としての専門性を蓄積して海外にも広げて欲しい」と永嶋会長は話し、長期休暇や帰国を認めるなど、柔軟に対応していくべきだと話す。外国人介護職の受け入れは、高齢化を迎えるアジア全体の問題でもあるからだ。

 外国人を雇用する際には、語学力、介護の知識、介護技術、そして宗教や生活習慣も含めた生活面、精神面をトータルにサポートする必要がある。事業者向けには「外国人介護職員の雇用に関する介護事業者向けガイドブック」が、09年3月に厚労省の助成事業により発行されている。賃金も含めてガイドに即した丁寧な対応が求められる。

 日本語の問題は、「褥瘡」など難しい日本語を使う介護現場の問題でもある、と指摘するのは「やさしく言いかえよう 介護のことば」(三省堂)の編著者、遠藤織枝氏。自立支援を学校で勉強したのに、現場では何でもヘルパーが手伝う、と話すベトナム人留学生。認知症の方への対応で日々悩んでいると彼女達は話すが、利用者への対応は日本人の問題でもある。日本の介護も見直す点が多々あることを教えてくれた。

 宮下今日子

(シルバー産業新聞2019年8月10日号)

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