地域力発見

自分が暮らすための住まいとまちを、自分達でつくる/宮下今日子(連載83)

自分が暮らすための住まいとまちを、自分達でつくる/宮下今日子(連載83)

 理想を込めて作った住宅に、仲間と繋がりをもちながら暮らす。そんな住まい方を叶えた近山恵子氏は、「100年コミュニティ」を掲げる(一社)コミュニティネットワーク協会の仕事を通して、高齢者住宅を提案してきた。しかも、企画調査で関わった那須の高齢者住宅に、ついに自分も住んでしまった――。

サ高住「ゆいま~る那須」

 サービス付き高齢者向け住宅「ゆいま~る那須」(コミュニティネット、東京都新宿区、須藤康夫社長)は、森林に5棟の戸建風の建物が輪になって広がり、ゆるやかな坂を下ったところに食堂がある。道々には案内版はない。建物は天然の杉材なので、木目が森林に溶け込み、まわりの景観を損ねない。3万坪の敷地を那須連山が包み込む。

 住宅には60歳以上の方が、それぞれのライフスタイルに応じて自分らしく暮らす。玄関前には干し柿がぶら下り、薪が積まれる。薪のあるお宅は、室内に薪ストーブを設置。隣に住む兄が薪を割るのが日課とか。自炊した夕食は妹の食卓でとったり、食堂に行ったり。お気に入りのピアノも部屋に置いた。

 居室の間取りは23タイプもあるが、そもそも、建てる前に皆で土地を見に行き、設計の段階から入居希望者も関わったことは画期的だ。そのため、窓の位置や高さなどをはじめ、暮らし方が中心に置かれていると感じる。難しい人間関係や閉じこもりを防ぐ工夫も動線に見られた。

 話を伺っていると、相談業務を大切にしてきたことが分かる。同協会は、約1万3000人の一般高齢者の情報をもち、そのニーズを常に汲み上げてきた。地域包括ケアシステムや共生社会を示す同協会の図には、中心に相談業務が据えられている。本人や住まいが中心の行政のイメージ図とは異なり、目から鱗が落ちる。

 3%に富が集中する経済最優先の現代社会は自己防衛の社会に入った。年金頼みの高齢者が最期まで生活するには地方に住むのが最適、と近山氏は考えてきた。ここは、勤労女性の年金額、月12万円の人にターゲットを絞った。安定した入居者を確保し、土地、建物の借入金は1年間で返済し、現在は黒字経営が続いているそうだ。

 厨房担当の入居者、篠崎美砂子さん(右)と、 近山恵子さん

 厨房担当の入居者、篠崎美砂子さん(右)と、 近山恵子さん

 入居するには、家賃一括前払金(返還金制度あり)として約1000万円~と、毎月、管理費約4万円が必要だが、月々の生活費は約12万円を目安としている。自ら仕事を生み出すことも提案していて、実際、料理と送迎の運転手は住居者が給料をもらって働いている。車で20分くらい行くと新白河駅があり買物にも便利だが、送迎がないと全く機能しない。大事な送迎は自分達の手で作り出したのだ。

 毎朝、スタッフが安否確認を行う。病院や介護事業所とも連携し、看取りも行ったそうだ。元気な時はゆるやかに繋がり、助けが必要になったら元気な人が助ける、または専門職に繋げる。自助、互助、共助、公助が循環する暮らし方だ。

 ゆいま~るシリーズは、現在全国13カ所に広がっているが、北海道のゆいま~る厚沢部(檜山郡厚沢部町)では、入居者の要介護度の改善が見られ、町全体の介護保険給付費を年間約600万円削減したそうだ。元気な時はお互いが助け合い、どうしても必要になったら介護保険を使う。結果として、本人にも財政にも良い成果が生じる。持続的な介護保険財政の問題も含めて示唆に富む取り組みだ。

 また、近山氏は近隣の廃校になった小学校にコミュニティスペース「那須まちづくり広場」を作り始めた。今度は、国民年金プラスαで最期まで暮せるサ高住を創る。24時間対応の定期巡回・随時対応型訪問介護看護や障害者施設も整えるが、背景には今後、生活保護者が増え、国は支え切れないという危機感があるようだ。

 宮下今日子

(シルバー産業新聞2019年12月10日号)

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