在宅栄養ケアのすすめ

これで失敗!数字を見て人を見ず/中村育子(連載68)

これで失敗!数字を見て人を見ず/中村育子(連載68)

 在宅での食事・栄養指導を始めて間もない、またはこれからやってみようという管理栄養士向けの研修会・講演では、最近は「理想形」よりも「失敗」を話す機会が増えてきました。

 月並みですが、失敗に自ら気づき、そこから何を学べるかが、在宅ケア力を高める上で大切な要素です。実際、私の在宅訪問はスタートして最初の3年間が失敗の連続でした。今号では、過去にあった失敗例を少し紹介したいと思います。

調理器具を揃えてもらったが・・・

 大学では栄養計算や、年齢・性別・疾患などに応じて必要な食事摂取量・食事制限などを徹底的に学びます。これを基に、医療・介護等の現場では、必要栄養量を食材ごとの栄養価に置き換え、献立を決定するのが管理栄養士の主な仕事です。

 この思考パターンを、在宅ケアに当てはめてみると、果たしてどうなるでしょうか?

 訪問栄養には、主治医からの指示書が必要です。その際の利用者情報の詳細はまちまちですが、体重(BMI)、既往、さらに血清アルブミン値が分かれば、1日、1食当たり必要な栄養量はほぼ算出が可能です。

 実際にあった例ですが、初回訪問の際、私は栄養計算し用意しておいたレシピ、調理方法を伝えました。調味料の分量なども忠実にしたかったのですが、その家には「はかり」と「計量スプーン」がありませんでした。そこで私は、本人に買ってもらうようお願いしました。

 ところが翌月、訪問してみると、指導したことがほとんどできていませんでした。せっかく買ったはかりと計量スプーンも使っていないとのことです。このときは、なぜ上手くいかなかったのか気づかず、ひとまず同じプランで様子をみることに。

 しばらくすると、本人から「利用を止めたい」との連絡が入りました。

理解の確認作業を

 この失敗における最大の要因は、指示書の数字に頼り切り、「本人を観察していない」ことに尽きます。例えば指導内容を伝える場面。聞く側は、思わず流れで相槌を打ったり、うなずいたりしてしまいがちです。耳が聞こえにくい人だと、小さい声で早口で話せば、内容以前に聞きとることができません。今では必ず、会話の合間と最後に、話が伝わったかどうかの確認を行います。

 また、調理能力の把握は極めて重要です。今回は、はかりや計量スプーンを持っていない人に、それを使わせる時点で無理がありました。面倒だと思う人もいれば、使いたくても視力が低下し目盛りが読めない人もいます。まずは、普段何をよく食べ、自炊はどうしているのかを聞き取ることです。そして、目の前で調理方法を実演し、その後に本人にもやってもらうようにしましょう。

 何より、在宅の食事において緻密な栄養計算は、本人・家族に想像以上の負担をかけることになります。いきなり理想形を作るのではなく、簡単かつ分かりやすい目標から始め、少しずつ理想形に近づけていく支援が現実的です。

 中村育子(福岡クリニック)

(シルバー産業新聞2019年9月10日号)

関連する記事

2024年度改定速報バナー
web展示会 こちらで好評開催中! シルバー産業新聞 電子版 シルバー産業新聞 お申込みはこちら

お知らせ

もっと見る

週間ランキング

おすすめ記事

人気のジャンル