在宅栄養ケアのすすめ

食事こそ感染予防の第一歩/中村育子(連載82)

食事こそ感染予防の第一歩/中村育子(連載82)

 前号で新型コロナウイルス感染拡大による低栄養リスクについて話しましたが、具体的に関わったケースを紹介します。

心を不安にするコロナ

 Yさん(71歳女性、要介護2)は2年前から訪問栄養を利用しています。一人暮らしで犬を1匹飼い、千葉の松戸市に住む息子さんがたまに来て、犬の散歩などの世話をしています。

 新型コロナの第一波が流行した時期、Yさんの体重は37kgから35kgに減少、BMIは16.2に低下しました。もともと外出頻度が高くなかったため、自粛期間中の生活様式に大きな変化はなかったのですが、一番の要因は感染に対する不安でうつ傾向になり、食欲不振に陥ったことです。

 自宅にいるとテレビを見る時間が長くなります。連日報道される感染者数を目にし、しかも「東京在住」「高齢者」「疾患持ち」と、これだけ感染・重症化リスクの条件が揃ってしまっては、気持ちが落ち込むのも無理はありません。

 しかも、タイミングの悪いことに息子さんがケガで入院。もし今、自分が感染してしまうと、可愛がっている犬を預けなければならないとの不安もあったようです。夜も眠りにくく、体調も不安定になりがちでした。生活・社会環境の変化が与える精神的ダメージは、身体機能の変化と同等の見守り、早期のケアが求められます。

「食べて元気になる」を体現

 摂取エネルギーは一時期、1日1000kcal程度に減少。摂食・嚥下機能の低下は見られず、何より食事量の確保が課題でした。
 「自分が感染すること」が不安の種でしたので①食事量が減ると低栄養になる②低栄養になると免疫力が低下し、余計に感染しやすい――ことを丁寧に説明し、「食事をしっかり摂り、ウイルスに負けない体にしましょう」と気持ちを前向きにさせることに努めました。

 自宅への人の出入りには敏感になりやすい時期ですので、こういうときに知らないスタッフが入ると、不安を助長してしまうこともあります。2年間の訪問で顔なじみの関係だったことが功を奏しました。「自分の食習慣、生活習慣を知ってくれている」という信頼感が、食事指導を前向きに受け止める方向につながったのかもしれません。

 Yさんは腰痛や心疾患があるため立ち仕事が難しく、調理があまりできません。食事の内容はおにぎりやパンが中心になりがちでした。肉や魚、卵、豆腐などたんぱく質を多く含む食品の摂取を意識してもらうようにし、訪問介護のヘルパーと相談の上、昼食はコンビニやスーパーの「幕の内弁当」で栄養バランスを重視。少量摂取だった場合は市販の栄養補助食品の利用を勧めました。かつ、免疫力を高めるために乳酸菌「R‐1」(明治)をすすめました。

 9月には1日の食事量は1300~1400kcalまで回復。体重は38kgとコロナ前よりも増加しました。R‐1は朝・晩の1日2本飲用。こちらの話しかけにも反応が良く、Yさんの明るい雰囲気が戻りました。

中村育子(福岡クリニック)

(シルバー産業新聞2020年11月10日号)

関連する記事

2024年度改定速報バナー
web展示会 こちらで好評開催中! シルバー産業新聞 電子版 シルバー産業新聞 お申込みはこちら

お知らせ

もっと見る

週間ランキング

おすすめ記事

人気のジャンル