在宅栄養ケアのすすめ

訪問栄養でできること⑩ 食環境を見落とさない/中村育子(連載61)

訪問栄養でできること⑩ 食環境を見落とさない/中村育子(連載61)

 訪問栄養では、食事のチェックだけでなく食事環境の調整も重要です。今回は、管理栄養士が介入したNさんの事例(73歳女性、 要介護4 右半身麻ひ/糖尿病)を紹介します。

73歳女性、 要介護4 右半身麻ひ/糖尿病

 Nさん(73歳女性、要介護4)は脳出血が原因で右半身麻ひになり、要介護認定を受けました。退院後はしばらく通院を続けていましたが、その間に栄養状態が悪化。居宅療養管理指導の利用を開始した時点で、体重は半年で60㎏から53㎏と10%以上減少し(低栄養リスク「大」)、血清アルブミン値も3.2g/dlから2.4g/dlへ低下していました(3.5g/dl以下で「栄養不良」)。

 まずは自宅で食事をチェックしました。朝・昼食は一緒に住むNさんの息子さんが用意します。息子さんは夜勤が多く、夕食は近くに住む娘さんが来て作ります。ただ、息子さんの場合は、ほとんどがスーパーやコンビニで買ってくるお寿司や菓子パンを、そのまま出していました。Nさんの好物だそうです。

 調理しないこと自体、介助負担の面から決して悪いことではありません。ここでは栄養バランスと食形態の二点で、改善の余地があります。具体的には、サラダを一品加えたり、野菜を具材にしたお寿司も食べてもらうなどの工夫を行いました。また、お寿司や菓子パンは一口大に細かくして、食べやすくしました。

摂食 ・ 嚥下以外の原因も考える

 それ以上に問題だったのが、食事環境です。Nさんは普段、ベッド上で食事をとっていますが、最初、よりによって麻ひがある右側に食事が並べられていました。これでは食べ物を手に取るだけでも一苦労です。

 すぐにケアマネジャーへ相談し、ベッド用のテーブル(特殊寝台付属品)を介護保険レンタルで導入。食事は常に左手で取りやすい位置へ置くよう、息子さんにアドバイスしました。

 もう一つ、ベッドの背上げ角度がだいたい38度くらいで、これも食事の姿勢としては不十分でした(写真)。45度以上で調整するよう指導したところ、現在は後頭部にクッションを入れて55度くらいを維持しています。
 介入前の食事姿勢。今にも誤嚥しそう

 介入前の食事姿勢。今にも誤嚥しそう

 管理栄養士による訪問、と聞くと、栄養価の計算や摂食・嚥下機能だけについイメージを持たれてしまいますが、自宅では「なぜ食べられないか」の原因は本当にさまざまです。そして、その原因のうち、最優先で解決すべきものは何かを多職種で気づくことが食支援のスタートです。
 Nさんの場合、本当はもっと栄養面で介入すべき点もたくさんありますが、今回紹介した食事環境を整えることだけでも、3カ月を要しています。ただ、その結果、明らかにNさんの食事量は増え、体重減少もストップしました。そして、Nさん自身が、自分で食べたいものを話すようになりました。おそらく、好きな物を食べられるという実感を得たのだと思います。
 中村育子(福岡クリニック)

(シルバー産業新聞2019年2月10日号)

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