千田透の時代を読む視点

補足給付の見直し 妥当性を検証せよ/千田透(連載77)

補足給付の見直し 妥当性を検証せよ/千田透(連載77)

 次期介護保険制度改正に向けた意見書が、社会保障審議会介護保険部会でとりまとめられた。この中で特に争点になっていたのが、給付と負担の見直しだ。

 具体的な検討項目として挙げられていたのが、①被保険者・受給者範囲②補足給付に関する給付のあり方③多床室の室料負担④ケアマネジメントに関する給付のあり方⑤軽度者への生活援助サービス等に関する給付のあり方⑥高額介護サービス費⑦「現役並み所得」、「一定以上所得」の判断基準⑧現金給付――の8項目。このうち、②補足給付に関する給付のあり方と⑥高額介護サービス費については見直す方向となり、残りの項目は見送りとなることが決まった。

 ▽ケアプランの有料化▽要介護1、2の生活援助等の見直し▽利用料の原則2割負担――など、現場への影響が大きい項目を見送りにしたことは評価できるが、補足給付の見直しについては、今回の見直し案が妥当なのかどうか疑問を感じている。

 そもそも、補足給付は05年10月の介護保険制度改正で、介護保険施設の食費・居住費を自己負担にした際に、低所得者の負担増を回避するため、基準費用額と負担限度額の差額を介護保険から支給する形で導入された経緯がある。

 個人的には、支払い能力のある人に応分の負担を求めて制度の持続性を確保していくことには賛成の立場だが、低所得者対策にまでその考えを当てはめる前に多床室の室料負担など、もっと負担を求める優先順位が高い項目があるはずだ。

 今回の見直し案では、現行の所得段階「第3段階」をさらに「年金収入等80万円超120万円以下」と「120万円超」に細分化し、「120万円超」の区分の食費の自己負担限度額を月2万円から4.2万円へ引き上げる考えだが、応能負担にするのであれば、その2万2000円という金額が本当に妥当なのかどうかの検証が必要である。

 当たり前の話だが、細分化というのは単に段階をきめ細かくするという意味ではなく〝負担能力をきめ細かく見る〟という意味である。

 現行の第3段階の31万4000人のうち、どれだけの人が新たに負担増になるのか。平均寿命が延びている今、そうした人たちが本当に支払い続けられるのかといったことを、データをきちんと示した上で、国民の理解が得られるように丁寧に説明をしなければならないが、現状ではそこが不十分と言わざるを得ないだろう。

 そして、負担能力を検証した上で、過度な負担になっていることが分かった場合は、速やかに段階を見直すなり、税金を手当てするなどの対策が必要になる。

 制度を見直す際、数字の中に一人ひとりのリアルな生活があることの想像力を欠いてはならない。

 千田透(全国生活協同組合連合会 常務理事)

シルバー産業新聞2020年1月10日号

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