介護保険と在宅介護のゆくえ

生活援助や通所介護の基本報酬引下げを懸念/服部万里子(連載95)

生活援助や通所介護の基本報酬引下げを懸念/服部万里子(連載95)

 2019年12月27日に介護保険法改正へ向けた意見が集約された。改正案の「ケアマネジメントに1~3割負担の導入」「要介護2までの訪問介護とデイサービスを介護保険から外し市町村事業へ」「介護保険利用料は原則2割負担」が、今回は見送りになった。しかし、この提案の趣旨が介護報酬改定に出てくることの不安がある。

 第一は要介護1、2の介護報酬の単価の切り下げである。通所介護は介護度別に1時間単位の報酬が設定されているが、要介護1、2の単価が下がれば、事業所は重度中心型に営業せざるを得ない。

 訪問介護の生活援助は、今まで以上に報酬を下げたり、時間を短くするなどの単価設定が行われる可能性が高い。そもそも生活援助は介護保険から外し、民間の自費サービスやボランティアのサービスで対応していくことが国の方向性である。

 介護保険のサービス利用者の58%が要介護2までであり、その人たちは独居者が多く、認知症の人も多い。これらの要介護者の在宅生活を支える生活援助や「外出、機能訓練、まともな食事、入浴、専門職の状態把握」などを担保するデイサービスが削減されると、「別居する家族が買い物や掃除のために通う」など家族の負担が増え、介護離職も増えてしまうだろう。

 家族もいなければ「服薬できない」「食事をまともに食べられない」など、孤立化する危険性が増してくる。国は有償ボランティアや通いの場に行くように誘導しているが、保険者が「介護が必要」と認定した人が、専門的ケアを受けられないことが問題である。家族による高齢者虐待は増えており、その理由のトップは「介護ストレス・介護負担」である。介護の利用者や家族も追い込むなら、何のために介護保険料を負担しているのだろうか。

自己負担増と認定期間延長の影響

 介護保険法改正では、施設とショートステイの食費の自己負担が「世帯全員非課税かつ本人年金収入等120万円超」の低所得者ではアップする。また、高額介護サービス費(負担した介護費の一定額以上が返金される)は、年収383万円以上の場合の負担上限4万4400円が、所得により9万3000円から14万100円にまでアップするなど、じわじわと自己負担が増え、その分介護保険給付を削減するねらいだ。ショートステイは介護者の負担軽減の役割もあり、自己負担増の影響に注目が必要だろう。

 また、要介護認定の有効期間の3年から4年への延長は、市町村の負担軽減、費用軽減と労力軽減の目的であるが、3年間で6割の人の介護度が変化している現状で、4年間は異常な長さと言わざるを得ない。すでに前回の改正で、「状態安定者について二次判定の手続きを簡素化し、(審査しないで)前の要介護度に判定する」ことが行われており、認定審査会の形骸化に注意が必要だ。

 また、認知症対策や介護予防など、市町村の取り組み成果を評価する保険者機能強化推進交付金は、2020年度は400億円と予算が倍になり、現状の交付金に加え「介護保険保険者努力支援交付金」として、介護予防効果や取り組みについて評価する方向である。利用者の状態改善は大切だが、認定の期間や方法で「軽度への改善」がされてはならない。

全世代型社会保障とケアマネジメント

 安倍首相は「令和の時代の社会保障=全世代型社会保障」を掲げ、(厚労相ではなく)西村経済再生担当大臣を全世代型社会保障改革担当大臣に任命した。社会保障全般にわたる改革とし、「70歳までの就業機会の確保」「公的年金の受給開始年齢の上限を75歳まで引き上げ」「非正規雇用でも健康保険や年金適用」「障害者雇用率引き上げ」「兼務や兼業を解禁」など、働き方改革を進めて働く人を増やし、その被用者保険で医療・介護などへ総合的に対応する「全世代型社会保険」を作ろうとしている。

 さらに国は、「断らない相談体制」の構築として「相談支援の丸ごと化」を進めようとしている。児童福祉から障害者福祉、医療や介護相談、貧困者支援や就労支援などの「丸ごと化」は、ケアマネジメントではなく、総合相談体制の構築である。ケアマネジメントが果たしている、介護保険の利用者主体を目的とした選択制や、自己決定の支援を形骸化させてはならないと考える。

 服部万里子(日本ケアマネジメント学会 理事)

(シルバー産業新聞2020年2月10日号)

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