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低所得者の預貯金を奪う補足給付カット/菊地雅洋(連載50)

低所得者の預貯金を奪う補足給付カット/菊地雅洋(連載50)

 2019年12月16日の社保審・介護保険部会では、介護保険施設等の食費と居住費の補足給付の見直し案が示された。

 減免対象となる第3段階を①(80万円超120万円以下)、②(120万円超155万円以下)に細分化し、第3段階②の食費を2万2000円上げて、補足給付が支給されない第4段階と同じ水準とし、ショートステイの食費も段階区分ごとに上げるとしている。

 さらに2015年8月以降、一定額超の預貯金等(単身者1000万円超、夫婦世帯2000万円超)がある場合は補足給付が支給されなくなっているが、このうち単身者の預金額基準を第2段階「650万円以下」、第3段階① 「550万円以下」、第3段階②「500万円以下」とするとしている。

 いずれも利用者にとっては厳しい負担増となっているが、ここで思い出してほしいことがある。6月3日に金融庁が、「老後に年金収入以外に2000万円の資金が必要」とした報告書について、年金の信頼性を揺らがせるなどとして金融担当大臣が受け取らないという事態に発展したことは記憶に新しい。だがその報告書については、「老後の生活は年金収入だけでは成り立たない」ということを示した正直な内容だったという意見も根強い。

 その影響もあって、高齢者の預貯金は暮らしの破綻を防ぐための命綱であると考える人はますます増えている。そんな中で補足支給を受けている第2段階と第3段階の方々は、その預金を切り崩して介護保険施設における食費と居住費を支払わなければならない。

 預金が一定額以下になれば、補足給付は再支給されると言っても、それらの人々は実質、補足給付の支給基準以下の預金しかできなくなるという意味だ。しかもその預金額を金融庁が老後に必要だとした2000万円よりはるかに低い500万円以下(第3段階②の場合)まで下げようとしているわけである。

 しかしその対象となる人は、市町村民税が非課税の所得の低い人たちであり、将来の生活により強い不安を持つ人である。その人たちが生活費を削って貯めた預貯金を根こそぎ持っていくような改悪がされようとしている。

 それはまるで、所得の低い人が預貯金をたくさん抱えるのはけしからんとでも言うかのようなものだ。所得の低い人は生活水準が低レベルで我慢しろとでもいうのだろうか。これでは現役世代の間に貯金をして老後に備えようという意欲は益々減退するだろうし、預金などせずに老後は生活保護に頼ろうと考える人が増えて、社会保障費は逆に増えてしまう恐れさえある。

 本来社会保障は「社会の財」の再分配機能があるはずなのに、介護保険制度改正はそれに反した方向に舵を取り続けている。このように制度維持のための、「痛み」はすべて国民が負わされて、政治家や官僚は無傷のまま何もしないという制度改正はいったいつまで続くのだろうか。それを国民はいつまで許し続けるのだろうか。

 菊地雅洋(北海道介護福祉道場あかい花 代表)

(シルバー産業新聞2020年1月10日号)

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