千田透の時代を読む視点

介護保険、これからの20年を乗り切るために/千田透(連載79)

介護保険、これからの20年を乗り切るために/千田透(連載79)

 介護保険制度が創設されて、まもなく20年を迎えようとしている。私も厚生労働省の職員として制度と深く関わってきたが、これだけ多くの人に利用されている現状からみても、介護保険がわが国の高齢者や家族を支える制度として、不可欠な存在になっていることは間違いのない事実だ。

 ただ、これからの20年は、さらに難しい局面になっていく。人口構造的な人手不足の問題や、社会保障費の財源の問題、8050問題などに代表される福祉ニーズの多様化・複雑化の問題など、介護保険制度だけでは解決できない課題もある。そうした中で必要となるのがグローバルの視点と、もう一つが真の地域包括ケアを実現していくための視点だ。そこを突き詰めてもらいたい。

 グローバルの視点では、この20年間で介護に関する知識・技術・サービスのノウハウなどが積み上がっている。こうした「日本式の介護」を必要としている国は多くある。一方で技能実習や特定技能など、日本の介護現場での外国人の受け入れが始まっているが、これからは、世界各国で介護人材の需要が高まるため、自ら現地法人などをつくって、「信頼を勝ち得て来てもらう」という展開も必要になってくる。

 日本語に加え、介護に関する知識や技術、さらには福祉用具の活用方法などを理解してもらうことで、「日本式の介護」が現地の人たちの信頼を勝ち取れる可能性は十分にある。そうすれば、育てた人材が積極的に日本に来てくれるようになるはずだ。

 また、日本の介護職員の中にも、海外で働きたい人もいるだろう。交互に人材の行き来があれば、働き手にとって魅力ある職場になるはずである。そうした展開を営利企業だけでなく、社会福祉法人などでも積極的に行えるよう、規制緩和していくべきだ。

 真の地域包括ケアを実現していくための視点では、住民自らが自分たちの地域を良くしていくスタンスが必要になる。たとえば、ちょっとした見守りを行う活動に対して、住民がその事業の責任者となる。あるいは出資をして、生活協同組合方式のような相互扶助の機能を地域社会の中につくっていく。その中に企業や社会福祉法人などが参画すれば地域貢献にもなる。そういうことを意図的に仕掛けていくのが、これからの市町村の役割だ。

 核となる場所をつくり、意識ある人たちを集めて、必要な支援を行っていく。少子高齢化が急速に進展する状況で、住民・行政の双方が、相互扶助を軸とした地域コミュニティの再構築を進めていく必要がある。

 地域包括ケアは高齢者だけを対象にしているわけではない。制度的にも介護保険を普遍化し、より幅広いニーズに対応できるようにすることが、これからの20年を乗り切るために不可欠である。

 千田透(全国生活協同組合連合会 常務理事)

シルバー産業新聞2020年3月10日号

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