千田透の時代を読む視点

介護現場のテクノロジー活用           目的を履き違えてはならない

 介護分野の人手不足の問題が深刻化している。厚生労働省の推計では、高齢化がピークを迎える2040年度には、介護人材が280万人必要となると試算しており、2019年度時点の211万人から、毎年3万3000人ずつのペースで増やしていく必要があるとしている。

 しかしながら、昨年発表された雇用動向調査では、2022年度は介護分野に入職する人よりも、離職する人の方が上回る結果になっており、先行きに不透明感が増している。
 こうした中、2024年度からの介護報酬改定では、柱の一つとして「良質な介護サービスの効率的な提供に向けた働きやすい職場づくり」が掲げられ、「介護人材不足の中で、更なる介護サービスの質の向上を図るため、処遇改善や生産性向上による職場環境の改善に向けた先進的な取組を推進していく」とのビジョンが打ち出されている。

 具体的には、▽介護職員の処遇改善▽生産性の向上等を通じた働きやすい職場環境づくり▽効率的なサービス提供の推進――などの項目を掲げ、基準や介護報酬上で、その実現に向けた取組を促していく考えだ。
生産性向上の関係では、短期入所系サービス、居住系サービス、多機能系サービス、施設系サービスで生産性の向上のための委員会の設置を義務付けることや、報酬上では、見守り機器などのテクノロジーを導入し、生産性向上ガイドラインに基づいた業務改善を継続的に行うとともに、その効果に関するデータ提出を行うことを評価する「生産性向上推進体制加算」が新たに設けられる。

 また、見守り機器などのテクノロジー活用などで、生産性向上に取り組む特定施設に対しては、人員配置基準を「3対1」から「3対0.9」に緩和する見直しなども行われる。
個人的には、見守り機器などのテクノロジーを活用して、業務の効率化や、サービスの質の向上を図る取組は、積極的に展開していくべきだと考えている。ただし、そうした話を介護報酬や人員配置基準と絡めて推し進めていくことには、かなり疑問を感じている。

 例えば、今回、新たに設けられる「生産性向上推進体制加算」については、当然ながら利用者の自己負担が発生する。介護職員の業務負担軽減を目的とした取組に対して、利用者がその費用を負担するというのは、そもそもの部分で無理がある。受けられるサービスの質がこれまでよりも良くなるのであれば、筋は通るが、そうであるなら、皆が納得するだけの十分な根拠が必要になる。人員配置基準の緩和についても同様である。
大事なのは、介護人材不足を補うためのテクノロジー活用ではなく、質の向上を図るためのテクノロジー活用である。その目的を履き違えてはいけない。

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