千田透の時代を読む視点

介護サービスの国際規格化 日本基準の反映は大きな枠組みで

 一部報道によれば、国際標準化機構(ISO)が、2025年にも介護サービスの質や安全性に関する国際規格を策定する動きがあるようだ。
 詳しくはわからないが、日本政府は高齢者の食事量や嚥下機能を考慮した食事の提供や、介護サービスを提供する事業者の財務状況の公開などを、日本基準として国際規格に反映させる考えなのだという。

 介護サービスの質や安全性について国際規格が策定されるのは、質の向上や介護人材確保を図っていく観点から、とても大事なことであるし、そこに日本の基準が反映されることになれば、国内の介護事業者の海外展開を支援していくにもつながる。そうであるからこそ、規格づくりについては、もっと大きな視点で、かつ戦略的に進めていく必要があるのではないだろうか。

 そもそも、日本のサービス業の良さとして評価されている、“おもてなし”の精神やホスピタリティの高さは、「文化」であり、これを「日本式」として国際規格に反映させるのは、文化の違いがある以上、不可能である。

 では、「日本式」とよばれる介護とは一体何か。それは、自立支援とケアマネジメントを軸にした介護保険制度の理念や仕組みであり、それを支えるための予防・介護・地域密着型の各種サービスであり、さらにはケアマネジャーや介護福祉士など、専門性が担保された資格であり、認知症や多種多様な福祉用具やテクノロジーを活用したケア手法などである。それらが介護保険制度を軸に有機的に作用して、高齢者を社会全体で支え合うシステムこそが「日本式介護」なのである。

 なので、日本基準を反映させるというのであれば、食事の提供方法や財務諸表の公表といった各論よりも、これまで介護保険制度を通じて培ってきたケアマネジメントの仕組みや、地域密着型のような新たな介護サービス、福祉用具やテクノロジーを活用したケア手法など、大きな枠組みを提案した方が、全体の利益につながるだろう。

 一方で、日本が先行してきた口腔・栄養・機能訓練をはじめとする介護予防や認知症ケア、褥瘡ケアなどの分野は、今後、科学的介護情報システム「LIFE」の取組を加速させ、エビデンス(科学的根拠)を示しながら、国際規格に落とし込み、他国をリードしていくという役割もあるだろう。

 ただし、仮に国際規格に多くの日本基準を反映できたからと言って、それで外国からの介護人材確保や国内事業者の海外進出が、すべて上手くいくほど甘くはない。外国人介護人材が働きやすい労働環境の整備が必要だし、事業者の海外進出についても、社会福祉法人なども海外展開できるよう法整備していく必要がある。全体のグランドデザインをどう描くのか。それこそが最も大事な視点なのである。

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