介護保険と在宅介護のゆくえ

要介護度改善への報酬ではなく苦闘する介護職への報酬強化を/服部万里子(連載101)

要介護度改善への報酬ではなく苦闘する介護職への報酬強化を/服部万里子(連載101)

 7月に介護保険の自己負担割合を決める「負担割合証」が交付される。家族の失業などの経済的困窮の中で、2割、3割へと負担が増加し、介護負担と経済負担が介護者家族に影響を与えている。

  特にコロナ禍でショートステイを利用する人、施設入所を希望する人が増えてきているが、食費や居住費の負担額を決める所得段階に、世帯全員が市町村民税非課税でも、預貯金額や遺族年金・障害年金なども勘案されることで、負担が増えているのである。

 このような中、来年4月からの介護報酬改定の論議が進められている。

 最近の傾向は「要介護度改善」「自立支援」への成功報酬が導入され、市町村へのインセンティブが強化されてきている。超高齢で基礎疾患を持ち、介護がなければ生きていけない要介護者、家族が高齢のため介護できない要介護者が介護保険の利用者である。要介護度の改善は喜ばしいことだが、介護報酬を改善への成功報酬とすることは見直しが必要だろう。現場の介護職が抱える不安と向き合いながらの介護業務への報酬とすべきである。

 要介護認定の要因のトップは認知症である。「マスクをつけていただくことができない」中での介護職の不安と負担は増している。また施設利用者も「面会なし、イベントなし」で自粛の余波が出ている。

 デイサービスやデイケアも3密を避け、人数や回数制限を設けざるを得ない中、通所サービスやショートの減収に対し「2ランク上の報酬請求等」で、利用者の自己負担増につなげる対応は誤りである。

 さらに通所が減った分は訪問介護にしわ寄せがきている。ヘルパーの感染対策の具体化、自粛により心身機能が低下した利用者への支援強化が求められている。このような状況に追い打ちをかけているのが、新型コロナウイルス感染者の増加である。

希望する医療・介護職すべてにPCR検査を

 日本の新型コロナ感染者は、7月末に3万人を超え、死者は1000人を超えた。注目すべきは、1月16日に日本で初めて感染者が出てから6カ月が経過しているが、最近3週間で1万人も感染者が急増していることである。

 国民の自粛と感染予防対策で、日本の死者は世界から見れば少ない。しかし、PCR検査の実施を絞っている日本では、無症状の感染者の把握ができないことが国民の不安を高めている。コロナうつも増えている。中でも医療・介護職の不安の中での業務は見過ごすことはできない。

 日本のPCR検査件数は異常に少ない。千葉県の特養ホームでクラスターが発生したが、保健所の指導では職員全員がPCR検査を受けられないとの報道もある。日本最大の病院内感染クラスターを発生した永寿総合病院(400床で患者職員214人感染、43人死亡)の検証では、PCR検査の遅れが指摘されている。希望する医療・介護職のすべてにPCR検査を実施すべきだろう。そこから医療崩壊への対応策を具体化すべきである。医療・介護職への応援は、まずPCR検査が受けられることから始まる。現場に立つ人たちの不安を取り除き、充実感を持って仕事ができるようにサポートしよう。

 服部万里子(日本ケアマネジメント学会 理事)

(シルバー産業新聞2020年8月10日号)

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