シニア住まい塾

シニア住まい塾《105》「めぐみ在宅クリニック」

シニア住まい塾《105》「めぐみ在宅クリニック」

 横浜でホスピス病棟の勤務医から、在宅緩和ケアを専門にする「めぐみ在宅クリニック」を開設した小澤竹俊医師の講演会に行って来ました。 小澤医師のほか、ケアマネジャー、訪問看護師、ヘルパー、訪問薬局の薬剤師、福祉用具事業者、そして父親を「めぐみ在宅クリニック」で最期までみてもらった男性も交えての講演会でした。 

家で最期まで

 小澤医師がめぐみ在宅クリニックを開設した経緯は、ホスピスはがんとエイズの人しか入れない、どんな病気でも安心して最期を迎えられるようにという気持ちから始めたということでした。めぐみ在宅クリニックで一番大切にしていることは、日に日に弱って行く人に対する援助を、分かりやすい言葉で表現できる力を持つこと。「がんばれ」という励ましではなく「私たちにできることは、○○です」と具体的に言葉にすることだそうです。

 その人が穏やかになれるかなれないかは、希望と現実の間のギャップを埋めることができないから。痛みをとるのは医師の仕事で、痛み以外の苦しみはゼロにすることはできない。でも人は支えがあれば、苦しみがありながらも穏やかで過ごせるそうです。たった一人で良いから分かってくれる人がいることが大事で、支えてあげる人は逃げないことが肝心です。

 大事な人を亡くした後のケアも重要で、喪失の現実を受け入れること、悲嘆の痛みを消化していくこと、故人のいない世界に適応していくこと、新たな人生を歩み始める途上において、故人との永続的なつながりを見いだすこと。亡くなった後もその人との会話は成り立つ――と言われました。

 最期を看取ってくれる医療関係者は医師と看護師が主ですが、訪問看護師は介護保険・医療保険にかかわらず医師の指示書によって動くものです。さらに訪問薬剤師も利用できます。薬局に行けない人、きちんと服薬管理ができない人は、薬剤師が自宅まで行ってくれるシステムが整っているのです。この訪問薬剤師は月に500円と薬代で利用できます。

 在宅で最期までいたいという人に対して、どのようなサービスをどの時間にいれるか、福祉用具も含めて調整するのはケアマネジャーです。

 マスコミは2025年問題を大きく取り上げていますが、病院での看取りがむずかしくなって、在宅での看取りに国も力を入れてきています。因みにホスピスは月に60万円かかりますが、在宅だと月に3万5,000円プラス医療費です(往診は1割負担の人は1万2,000円)。末期の人の訪問看護は、介護保険枠から医療保険に変わります。

ひとり暮らし、80代の男性へのケア

 80代半ばでひとり暮らしの男性の例が紹介されました。男性は肺がんの末期、病院は絶対にいやで、理由は「病院ではたばこが吸えない」でした。だんだん一人では外に行けなくなり、トイレに行くのも不自由になってきて、ケアマネが介護チームを作り、在宅での看取りを応援していったケースです。

 東京に住んでいる長男は、自宅で母親をみているので、父親の所には来られません(両親は折り合いが悪く、別居中でした)。最初は医師もヘルパーも拒否されましたが、ヘルパーは男性の好きな缶コーヒーを持って行ったり、玄関で挨拶と声かけだけでもしたり、根気よく通い続けました。そのうちにヘルパーに買い物を頼むようになり、買ってきたものを冷蔵庫に入れるなどで、ちょっとずつ家に入れるようになったのです。

 ヘルパーと看護師で連携ノートを作り、よだれが出る、たばこの焼け焦げがあちこちにある、食べ物の飲み込みが悪いなど、情報交換を盛んにし、男性の状態を関わる人全員で把握するようにしました。訪問薬局も玄関払いが続きましたが、痛み止めと睡眠薬は服薬してくれたので、最初はそれだけを推めました。お風呂は嫌いだったのですが、最後は訪問入浴に入ることで心がほどけてきたそうです。

 ケアマネさんの言葉で印象的だったのは「ここで暮らし通す」とわがままを通してくれたので、かえってやりやすかった、という言葉。状態が変わるごとに気持ちが揺れる人の方がやりにくいそうです。医療、介護、看護は信頼関係が築けるか築けないかがカギだと言いました。

 最後に息子さんは、「母親は家で自分が看送ったけれど、働いていたので介護保険で足りない分は家政婦さんを頼んだので、月に30万円かかりました。両親とも看送った今では、自分の死に場所は瀬谷(横浜市)だと思っています」と話していました。

 地域によってターミナル介護に温度差があるのは困ります。「めぐみ在宅クリニック」の様なところが皆さんの地域にも浸透するように願っています。

 「めぐみ在宅クリニック」ホームページ=http://www.megumizaitaku.jp/

 メールアドレス=Megumi_zaitaku@miracle.ocn.ne.jp

(シルバー産業新聞2016年8月10日号)

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