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愛知県 オンライン服薬指導「特区」で先行実施

愛知県 オンライン服薬指導「特区」で先行実施

 愛知県は2018年6月より国家戦略特区を活用したオンライン服薬指導(薬剤遠隔指導事業)を実施、同月末時点で7人の患者が受けている。現行では対面が原則とされている服薬指導。特区事業では離島・過疎地など医療機関や薬局へ行くことが困難な患者へ、テレビ電話等を用いた遠隔での指導を可能としている。ただし18年に診療報酬化された「オンライン診療」の受診が必要なため、対象者はかなり限定的。愛知県、そして実際に服薬指導を行うアインホールディングスに現状を聞いた。

 医薬品医療機器等法(薬機法)上、処方箋に基づき調剤された薬剤は「薬剤師による対面での服薬指導」が原則とされており、オンライン服薬指導は認められていない。

 国は2015年の「日本再興戦略」で医療資源が乏しい離島・へき地に対し、国家戦略特区で実証的に、テレビ電話を活用した服薬指導を可能とすることを明記。17年に厚労省が運用ルールを通知した。現在、国会ではオンライン服薬指導を解禁する旨の改正法案が提出されている。

オンライン診療が必須

 厚労省が示した運用ルールによると、オンライン服薬指導の利用対象者は離島・へき地などに居住し、「オンライン診療」を受けていることが要件。診療から服薬までを一体的に提供する考えだ。

 オンライン診療を行った医療機関は「特定処方箋」を発行し、薬局へ原本、患者へ写しをそれぞれ送付。そこからオンライン服薬指導がはじまる。指導はテレビ電話(スマートフォン、タブレット含む)を介し、映像・音声は記録。薬は指導後に直接または配送にて患者へ提供する。

 オンライン診療は18年の診療報酬改定で新設されたが、「算定初月から6月間は同一医師による対面診療を毎月実施」「緊急時は概ね30分以内に対面診察が可能」とあくまで対面診療の原則を崩さない形で要件が厳しく、算定が進んでいない。

 同省が9月11日の中央社会保険医療協議会で提示した資料によると、18年6月審査分でオンライン診療料等の届出施設は970カ所(病院65、診療所905)、算定回数は84回にとどまっている。

愛知県 大手4社が参入

 オンライン服薬指導の特区事業に名乗りを上げたのは兵庫県養父市、福岡市、愛知県。愛知県は全国で初めてサービスを開始した。同県保健医療局生活衛生部医薬安全課の小栗信主幹は「目的は地域医療の充実。厚労省の運用に関する通知のタイミングで、地域の薬局からもニーズがあるとの相談が来ていた」と参入の経緯を話す。

 同県が定める対象患者の居住場所は佐久島(西尾市)、篠島(知多町)、県東部の新城市、設楽町、東栄町、豊根村など。新城市の市街地などは薬局が近くにあるため除外される。

 薬局はテレビ電話等の環境整備と、手順書の作成が必要。手順書には服薬指導前の画面・音声のチェック方法も明記し、かつ、仮に事故やトラブルが起きた際の対応として、患者宅から近い医療機関や薬局の連携先も求めている。登録は6年更新。

 6月末時点で登録薬局・利用患者数はアイン薬局稲沢店(1人)、キョーワ薬局長久手店(4人)、たんぽぽ薬局新城店(1人)、日本調剤瀬戸薬局(1人)の4カ所・7人。「オンライン診療を受けていることが条件なので、母数はかなり絞り込まれる」と同課大参寛典主任は述べる。

 サービスの実態に関しては「患者のプライバシーが守られる」「画面を利用し薬を大きく見せることができる」といったメリットがある一方、「表情が分かりづらい、視点が合わない」といった意見も。「吸入薬はデモ器で使用方法を説明することも多く、そぐわないことも。薬剤の種類で対面・オンラインを判断する薬局も見られる」(小栗氏)。

 また、オンライン服薬指導を円滑に進める上で障壁となるのが、処方箋の取扱い。現行、処方箋の発行は紙ベースで、同特区事業の「特定処方箋」も同様となる。特定処方箋は原本を薬局へ郵送または手渡しする必要があり、「オンライン服薬指導の開始にどうしてもタイムラグが生じる」と小栗氏は指摘。「電子処方箋が導入されれば、オンライン化がより有効活用できる」と述べる。

アインHD 在宅患者の継続支援に

 「アイン薬局」を全国展開するアインホールディングス(札幌市、大谷喜一社長)は愛知県の国家戦略特区にて、オンライン服薬指導を全国で初めて実施した。

 アイン薬局稲沢店では、昨年7月に1人が利用開始。6月末時点で約10回の指導を実施している。予約制で、主に来局者のピーク以外の時間で設定。同店舗には薬剤師が4人所属し、オンライン服薬指導は現在、同一の薬剤師1人が担当している。同社は福岡市でもカ所薬局を登録しているが、まだ実績はない。

 指導方法は外来と大きく変わらず、最初に通信環境のチェックを行うぶん多少時間は要する。同社地域連携部の平子庸志部長は「通常の外来と変わらない指導ができたというのが最初の印象。薬の剤形や残数チェックなどは、画面に大きく映すことで対面より行いやすい部分もある」と説明。「何より、普段の生活空間で受けられるので患者がリラックスできる。プライバシーも守られる」とメリットを話す。

 同時に平子部長は薬剤リスクの管理を課題にあげる。「例えば抗がん剤の場合、副作用で手足の色が変化することがある。今の画像技術で見過ごすことがないかなど、対象疾患については慎重な判断が必要だろう」。

平子庸志部長

 4月末時点で同社の調剤売上高は全国トップ、薬局数は1132店舗にのぼる。12年前からは在宅医療推進に広範囲で取組み、9割以上の店舗で在宅訪問での服薬指導を実践している。

 薬物治療から脱落し、重症化しやすい患者をどう支えるかが同社のテーマ。経営企画室の鈴木奈々絵次長は「継続フォロー強化の点で注目している。これまでも、必要に応じて電話で様子を聞くなどしてきたが、不在で何度も電話をかけるなど薬剤師の手間も大きかった。オンライン化はそれを補完できるツールの一つ」と述べる。

 平子部長も「外来・訪問の間を埋め、『顔を見ないと不安』という患者にも最適。事業性よりも、在宅医療の限界点、人材不足とった社会問題の視点で必要なサービスだと感じている」と語る。

鈴木奈々絵次長

(シルバー産業新聞2019年10月10日号)

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