未来のケアマネジャー

ターミナルケアマネジメント加算の意義/石山麗子(連載7)

ターミナルケアマネジメント加算の意義/石山麗子(連載7)

 今月は居宅介護支援のターミナルケアマネジメント加算(以下「加算」という)について考えたい。2018年度からこの加算の創設とそれに伴う運営基準に定めるケアマネジメントプロセスの緩和が行われた。一方で「算定しにくい」等の声も聞こえてくる。算定率が低調(0.02%)な理由には複数の要因があるようだ。

 「ターミナルケアマネジメント加算」。これはケアマネジャーの、特に〝一部〟の方にとって長年の悲願だった。とはどういうことか。加算創設前の調査資料によれば、1年のうちに看取りを実施した事業所は全体の約6割、うち年に5件以上の事業所は全体の約1割に過ぎなかった。どうやら地域の中でがん末期のケースは、限られた居宅介護支援事業所に集中していたようだ。

 自分の地域にあてはめてみれば「あの事業所さんだなぁ」と何となくイメージできると思う。その事業所では目まぐるしく利用者の状態が変化する中で、安心して最期を迎えられるよう緊張感を保ちつつ、山積の書類を作成するという悩みを抱えているだろう。事業所経営の観点から見れば採算にはあわず、運営の手腕を問われるところである。ある意味この加算は地域でがんばってがん末期のケースを受け入れ続けている事業所に対しての評価という見方もできる。

 ターミナルケアマネジメント加算の算定率は他の加算と比べても低い。とはいえ、一概に比較できるものではない。理由は次のとおりだ。退院・退所加算は「退院」という一点を前提条件としていて病名や状態像は問われない。退院時に何をするかの算定要件をクリアすれば算定できる。

 一方、ターミナルケアマネジメント加算は①疾患(がん)、②ステージ(末期)、③最期まで在宅を選択している――という複数の前提条件がある。更に算定要件としてケアマネジャーの行うべき項目が設定されている。つまるところ、他の医療介護連携の加算と比べて母数は限定的であり、当然、総件数に占める算定割合は低くなる。この加算の算定率の低さは、こうした複数の要因が重複しているという見方がある。

 加算はせっかくなら算定できる方が良い。とはいえ算定しにくいから算定しやすく改定してしまおう!というわけにもいかない。加算の要件設定の核心は、「なにをすれば利用者のQOL向上に繋がるのか」に集約されるからだ。

 ケアマネジャーから「がん末期のケース、何をしたらよいかわからないんです」と相談されることがあるが、まさにこの加算の課題そのものであり、脆弱面でもある。ケアマネジャーが自分の役割がわからないなら、利用者・家族や連携多職種は、ケアマネの役割を理解しようがないし、亡くなる2週間のうちに2度も利用者宅を訪問する必然性もない。算定できない一番の理由にもなっている(表)
 訪問するには利用者家族の理解と同意が必須であり、特に退院と共に開始した看取りケースでは、馴染みのない人に最期を迎える段階で納得できる理由もなく、頻繁に訪問されたいと思わないだろう。算定しにくい理由に「同意を得ることが難しい」があるが、仮にケアマネジャーのがん末期における専門性(役割)が確立されていれば、利用者家族の納得も得られやすいだろう。

 この加算を創設するにあたり議論した社会保障審議会では、事実「医師と看護師がいれば完結する」との意見もあった。敢えてケアマネジャーを組み込んだ理由は?終末期は医療さえあれば最善のケアとなるのか。人はどんな状況下でも懸命に「生活」している。その延長線上に死がある。ケアマネジャーは常にそれを意識し人生の最終段階にある利用者の「生活の質」を生活支援の観点から考えたい。「緩和」や「人生の意思決定」を含め「ケアマネジメントの専門職として専門性を確立」する責務がある。

 筆者はこの加算は非常に脆弱性が高く生まれてきたと感じている。難産の末、産声をあげたこの加算だが実践の叡知を集結し高め育て、それを通じこれから到来する高齢者多死時代に「生活の中での死」を支える技能をすべてのケアマネジャーの標準技能としたい。

 そうして生活支援の観点から「自立と死」、この両者を含め専門性の高い支援技能をもって尊厳をまもれるなら、豊かな高齢社会の実現に向けてケアマネジャーは価値ある貢献を成せるだろう。

 石山麗子(国際医療福祉大学大学院 教授)

(シルバー産業新聞2019年7月10日号)

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