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福祉用具貸与 上限価格設定の背景

福祉用具貸与 上限価格設定の背景

 2018年10月から、福祉用具貸与は、全国平均価格の開示と合わせて、上限制がスタートする。自由価格制の下で、製品ごとに「全国平均貸与価格+1標準偏差」が上限になる。レンタル制度にどのような影響が出るのかは、具体的な運用方法次第と見られ、今後の検討課題だ。上限設定を行うに至った背景を考える。

なぜ上限価格が設定されたのか

薬価制度を嫌っての自由価格制

 18年改正論議で、財政制度等審議会から提起された福祉用具貸与の「原則自己負担化」という事実上の制度外となる危機は、29都府県227市町議会の国への反対意見や、利用者22万人、ケアマネジャー5万人の制度継続を求める署名など、福祉用具制度を守る大きな潮流によって、軽度者の生活援助外しとともに見送りとなった。

 財務当局には、福祉用具を制度外とすることで、一般市場で福祉用具が活用される流れを作り、これを皮切りに保険給付の範囲を縮小し、国の保険財政の縮減を図るねらいがあった。日本では、医療機器や補装具でもない介護保険の福祉用具サービスは、国家資格の専門職の関与が少なく、06年改正でも給付制限の最先鋒に置かれてきた。

 200万人近い在宅の要介護者が利用する福祉用具貸与が守られたことは良かった。もし福祉用具が給付対象外になっていたら、今後、利用者の要介護度が上がり、人的サービスや施設サービスの利用が拡大していたに違いないからだ。

 福祉用具レンタルは、自由価格制による市場競争によって、年間2%程度の平均価格の低下がある。介護ベッドの貸与価格は、当初1万5,000円を超えていたが、現在では8,800円程度まで低下している。1人当たりの平均貸与価格も、1万7,000円程度から1万3,000円程度まで下がった。利用者が増大した今も、介護保険の給付費全体に占める福祉用具貸与の割合は3%に留まっている。

 福祉用具の自由価格制の採用は、品目や価格を決めるための手間やコストを要している薬価基準制度の二の舞になることを嫌っての判断だ。価格の低下だけでなく、多様な心身状況にある要介護者が様々な生活場面や環境の中で効果を発揮できる、多様な福祉用具を直ちに給付対象にできるという大きなメリットがある。自由価格制は、「必要な時に必要な人が必要な用具を使える」レンタル制度との相性も良い。

外れ値対策としての上限設定

 こうした極めて財政効果が高い自由価格制だが、副作用として「外れ値」(極端に高額の貸与価格)が発生していた。要因として、誤記や数カ月分まとめての請求など事業者の問題や、TAISコード取得にあたり1製品1コードが徹底されていないメーカーサイドの問題も指摘される。この点は、18年改正で、貸与事業所に対して介護給付費請求書の適切な記載方法の徹底などで対処される予定だ。

 テクノエイド協会の調べでは、外れ値の割合は小数点以下数%程度と例外的。公正取引委員会の指導もあって、独禁法違反の価格指導に当たることなどを理由に、都道府県が、外れ値に対して適切な行政指導を実施できなかった側面も、結果として外れ値が一定放置される要因になってきた。

 さて、外れ値対策として示された上限設定「全国平均貸与価格+1標準偏差」は、18年改正を検討する介護保険部会では表立った議論はなく、見直しの意見書(12月9日承認)にも記載はない。当初、介護保険部会では、外れ値対策として、全国の平均貸与価格の提示の義務付けとともに、極端な高価格である場合には、保険者によるチェックが働くように、保険者の了解を必要とする案が示された。しかし事務負担の増加など対処が困難だとして、市町村が難色を表し「一定の上限を設けることが適当」とされた。

 そうした中で12月19日、麻生財務大臣と塩崎厚労大臣の17年度予算折衝の場で、「全国平均貸与価格+1標準偏差」による上限設定が承認された。翌々21日は、17年度予算案として閣議決定されている。政府として異例の判断だった。

影響探る調査を実施

日本福祉用具供給協会 小野木孝二理事長

 現在200万人の人たちが福祉用具レンタルを使って在宅で生活を続けておられる。今回の上限設定が実施されると、福祉用具の利用や事業にどのような影響が出るのか。現在、協会加盟事業所にアンケート調査を実施している。この結果を受けて、上限設定の見直し方法や新製品での設定などについて国と話し合っていきたい。

 しかし、必要なことは「外れ値」の解消であり、国は上限設定を外れ値をなくすための仕組みであると説明しているので、何度も実施されるようなものとは考えられない。また、18年10月から上限制が始まるのであれば、少なくとも18年4月には上限の価格が決まっていなければ対応が困難だ。

 福祉用具専門相談員が利用者に全国平均価格を提示して商品説明をする点は、公的な制度であり、事業者として真摯に受け止めなければならない。

 住宅改修の相見積は、建築業にとっては単価の安い仕事だけに、対応してくれる施工業者を見つけるのが困難だと思われる。

<18年改正の方向>

福祉用具貸与、 住宅改修のポイント

 ①福祉用具貸与の全国平均貸与価格を公表する仕組みを作る
 ②全国平均貸与価格を提示して、複数の製品の価格と特徴を説明する
 ③福祉用具貸与計画書をケアマネジャーに交付する
 ④福祉用具貸与価格に極端な価格差が生じないようにするために、
  自由価格のもとで、上限設定(全国平均貸与価格 +1標準偏差)を行う
 ⑤介護給付費請求書の適切な記載方法の徹底を図る
 ⑥住宅改修の見積書類に改修内容、材料費、施工費の内訳が分かるようにする
 ⑦複数の住宅改修事業者から見積りを取るよう、ケアマネジャーが利用者に対し説明する
(シルバー産業新聞2017年2月10日号)

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