インタビュー

「特養の排泄支援の取組拡大に期待」味酒野ていれぎ荘・窪田里美氏

「特養の排泄支援の取組拡大に期待」味酒野ていれぎ荘・窪田里美氏

 2021年介護報酬改定で排せつ支援加算は、国へ排泄に関するデータ提出をしてフィードバックを受けるというPDCAサイクルを評価する加算と、その結果として利用者の自立排泄が達成された場合にアウトカム評価をする加算体系が新たに創設。しかし、算定率(旧加算、2019年時点)は老健で約30%、特養で約7%と算定が進んでいないのが現状だ。排泄支援の取組拡大は期待できるか。全国老人福祉施設協議会役員で特養ていれぎ荘の窪田里美施設長に算定のポイントと施設での取組みについて聞いた。

 排せつ支援加算は2018年介護報酬改定で、介護施設入所者の自立した排泄を支援する体制を評価する加算として新設された。これを受け、全国老人福祉施設協議会は「施設系サービスにおいて排泄に介護を要する利用者への支援にかかる手引き」を作成した。

 手引きの作成に携わった老施協総研運営委員会委員の窪田里美氏は「現場からの『具体的なケア方法や、自立排泄の評価が難しい』などの意見から、利用者の状態に合わせた取組み事例や、排尿のメカニズムなど基礎知識をまとめた」と説明する。

 しかし、厚生労働省の調査によると、同加算の算定率は老健では約30%、特養では約7%と算定はなかなか進んでいない。「コストに対して、加算額が低い」などが主な理由に挙げられた。

算定期間の撤廃は評価

 4月の介護報酬改定による排せつ支援加算の主な変更点は①入所者全員のスクリーニング実施により、入所者全員に算定できる体系に変更②6カ月間の期限を撤廃し、6カ月以降も継続算定可能とする③国のデータベース「LIFE」へデータ提出を義務化④排泄状態の改善(アウトカム)について評価する新区分を設ける⑤看護小規模多機能型居宅介護も算定対象に追加――など。

 窪田氏は「算定期間が延び、継続した評価とケアが実行しやすくなったことは評価する。特養の排泄ケアの取組が拡大することを期待したい。ただ加算額については実際のコストや労力に見合っていない」と述べる。

 また、介護人材が不足し、新型コロナウイルス感染症の対策など業務負担が増える中で▽体制加算となったことで計画作成量の増加▽LIFE提出情報とフィードバックの管理▽定期評価――など現場の負担が多くなっており、職員の負担軽減も視野に入れて、運用を考えることが重要となると指摘した。

利用者、職員も快適な排泄ケアの確立目指す

 窪田氏が施設長を務める特養「味酒野ていれぎ荘」(愛媛県松山市)では、19年から排せつ支援加算の算定を開始。当時、松山市内では同加算を算定する、唯一の特養だったという。

 同施設では、利用者の気持ちを理解するために、職員は実際に履いたおむつに排泄し、数時間過ごす研修を実施している。「排泄はとてもデリケートなこと。不快な状態を経験し、より快適な排泄ケアの方法を積極的に考えてもらいたい」(窪田氏)。

 排せつ支援加算算定に向けまず初めに、排泄に関する利用者の希望をヒアリング。必要な利用者には3日間の排泄日誌を作成し、寝たきりやおむつに排泄していた人も、1日最低1~2回はトイレに誘導して「おむつが当たり前の生活」からの脱却を目指してきた。

 また、利用者も職員も快適な排泄ケアの実現のため、ノーリフティングケアを取り入れた自立排泄支援を実践。窪田氏は「人力による移乗や移動介助は職員の腰痛だけではなく、利用者の拘縮にもつながりかねない」と強調する。

 例えばスタンディングリフトを活用することで、車いすからトイレへスムーズに移動し、また、排泄しやすい姿勢を維持できる。これにより、おむつへの失禁が減り、外出機会が増えるなど利用者の生活が広がっていったという(写真)。

 「身体機能などADLの改善の先にある、活動や参加も含めた支援を心掛けている」と窪田氏は説明する。
リフトを活用して、利用者も職員も快適な排泄支援

リフトを活用して、利用者も職員も快適な排泄支援

医療と連携し、細かく利用者状態を評価

 自立排泄には▽利用者の排泄に関する希望を聞く▽ベッドから起き上がる▽歩く・車いすに乗って移動する▽便座に座る▽トイレのカギを閉める▽用を足した後に拭く▽衣類を着脱する▽手を洗う――など様々な行為が連続しており、一つひとつ丁寧にアセスメントすることが大切だと窪田氏。

 「排泄ケアは、他の自立支援の取組みと比べて効果を実感するまで、長期間かかる。しかし、利用者にとって、どれか1つでも達成できればそれは自立に繋がっていることを意味する。細かく状況を分析して、利用者と達成感を共有しながら取組むようにしている」と話す。

 移動や座位などの運動機能のほか、しっかりとした排泄に繋げるには「口から食べる(摂食)、飲む(嚥下)」、食物繊維や水分量(栄養)など生活全体を把握して取組むことが求められる。

「出す」ことが目標とならないように注意

 生活全体に関わりがある排泄ケアは目標設定も重要。「排泄ケアを行う際、『出す』ことをゴールに取組んでしまうことも多い」と窪田氏は指摘する。

 例えば、便が出にくい利用者の場合、「出す」ことをゴールにすると、下剤を使って排便を促すという計画が立てられることが多いだろう。

 しかし、過度な下剤利用は、下痢による脱水や、排便コントールがより困難になり、利用者も職員にも負担が大きくなる可能性がある。

 窪田氏は「便が出なくても、様子を見て数日後に健康な便が出たら、それが利用者の適切な排便スケジュールと言える。このようなケースは介護職だけで判断するのは難しいので、医療職と連携して『この利用者は排便日数ではなく、便の状態で評価する』など個別に判断することで、より適切なケアの実践に繋げられる」と説明する。

初めて聞いた「トイレ排泄したい」という利用者の希望

 同施設の入所者全員に排泄のヒアリングを行った際に、寝たきりでおむつに排泄していた利用者が「排泄は便所でするものだ」と言ったという。

 同施設で排せつ支援加算算定の調整などを行う、浅野俊江相談員は「これまで長くその利用者と関わってきたが、『トイレで排泄する』という希望を聞いたのは初めてで、なぜ早く聞かなかったのか、と後悔した」と振り返る。

 その後は、座位を保つリハビリを行い、介助しながら誘導し、トイレでの排泄を実現させた。

 「トイレ排泄したときの、利用者の嬉しそうな表情は忘れられない。特養では自立している入居者は少ないが、利用者の思うタイミングでトイレ排泄できれば、それは自立だと思う。できなかったことが1つでも多く『できること』にかわるよう支援していきたい」(浅野相談員)

 窪田氏は「排泄ケアは排泄物を片付けることではなく生活全般に影響があり、利用者の生活の質向上にも繋がる繊細なケア。排せつ支援加算の算定を、施設での排泄ケアが正しいのか、利用者の希望に沿ったケアが実践できているか見直すきっかけにしてほしい」と語った。

見つけやすいトイレで自立支援

 環境改善による自立排泄の支援方法もある。例えばトイレのマーク。一般的に男女のシルエットが用いられているが、認知症の人の中には、マークだけではトイレと理解できなかったり、人にトイレの場所を聞くのは恥ずかしいという人もいる。マークではなく大きな文字で「トイレ」と表示することで、誰もが自分の力でトイレに行きやすい環境を作ることができる。
(シルバー産業新聞2021年6月10日号)

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