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SOMPOケア 機器活用した質向上・負担軽減 約170施設で

SOMPOケア 機器活用した質向上・負担軽減 約170施設で

 介護の品質向上と職員の負担軽減の両立をめざす「未来の介護」に取組むSOMPOケア(東京都品川区、鷲見隆充社長)。リアルデータやテクノロジーを活用し、業務の記録・分析・見直しを行い、施設全体での業務最適化をはかる。2月現在、全国280施設のうち約170施設で実践。次期介護報酬改定で新設される生産性向上推進体制加算は、全施設での算定を目標に置く。

 同社は2021年の内閣府の規制改革会議で「持続可能な介護保険制度の実現に向けた提案」として、テクノロジー等による生産性向上の必要性、人員基準の緩和策について説明。翌22年には厚労省「介護ロボット等による生産性向上の取組に関する効果測定事業」に参画した。

 実証フィールドは介護付き有料老人ホーム12施設。「未来の介護」の先進施設となる。導入したテクノロジー機器は施設によって多少異なるが、約10製品。同社ラボで効果検証を重ね、300を超える製品から厳選したものだ。同社取締役執行役員の藤崎基氏は「選定基準は①利用者の安全性・快適性が担保②職員が操作しやすい③生産性を具体的に高められる――の3点。多くの製品は①・②はクリアするが、③の生産性が難しい」と述べる。

 効果測定の際に重要視したのが、業務効率を高めるための使用方法。例えば再加熱カートの場合、配膳~下膳までの動線や運ぶ際にどのくらいの高さの台が必要かなど、機器周りの一連の業務も手順化した。これによる業務時間の削減は1日792分と、導入機器の中で最も高い効果が得られた。

 藤崎氏は「使用しているのはいずれも一般に流通している介護機器。基本に忠実なケアを行いつつ、これら複数機器を工夫して使い、業務全体を最適化していくことが不可欠なプロセスとなる。導入するだけで自動的に生産性が上がるわけではない」と強調する。

 実証施設の一つ「そんぽの家成城南」(東京都世田谷区)上席ホーム長・春田愛氏も、現場で使い方を浸透させるのに苦慮したと話す。「記録の残し方一つにしても、慣れるまで1カ月は要した。業務効率化を実感する時期まで継続できるかどうかが、定着の分岐点」。実際、職員アンケートでは、導入後数カ月は心理的ストレスが悪化し、そこから回復して最終的には導入前より軽減されるとの結果が、12施設ほぼ共通して得られた。

基準時間と実時間の差を埋める

 機器を適切に使用した上で、同社では排泄、入浴など各介助に必要な時間(基準時間)を入居者ごとに設定。この基準時間で入居者の生活スケジュール(介護計画)を作成する。計画・実施記録等は同社開発の「egaku」で一括管理。職員はスマートフォン等で援助の開始・終了時に操作すると、その内容や所要時間等が記録される。

 藤崎氏は「例えば基準時間に対し実際の援助時間が長かった場合、職員のケアの習熟度が問題なのか、ご利用者の調子がたまたま悪かったのか。基準時間より短いときは、ケアが雑になっていないか。全業務を記録していることで検証ができる」と述べ、改善によって基準時間に近づけていくことが生産性向上の実績に結びつくと説明する。

 基準時間は職員の業務予定のベースにも。勤務時間帯のうち19%程度を空き時間にし、負荷が偏らないように組む。「空き時間が15%を切ると休憩時間が適切に確保できない」(藤崎氏)。入居者の状態悪化などで基準時間が増加した場合は、他の職員と業務を一部入れ替えるなどの調整が行いやすい。

 利用者へのケアの質向上も。ナースコールを受けてのトイレ誘導など、予定時間にない援助は「非定時援助」として記録され、介助時間見直しの検討につながる。「ナースコールは不満足の意思表明。ご利用者が必要なタイミングで援助に入り、非定時援助をゼロにするのが理想」と藤崎氏は述べる。

 春田氏は「基準時間を超える介助が多くなっているご利用者はグラフで一目瞭然。適切な援助の検討もしやすい」。介護計画の見直しについては一旦「課題検討項目」として挙げ、施設長などが判断する。こうした職種間の情報共有、申し送りなどはLINEWORKSを活用。「コミュニケーションの時間が格段に効率化できる。従来のように朝礼・夕礼や会議で全員が集まる必要もない。職員の不満も減った」と春田氏は話す。

データ分析班を専従

 同社の取組の最大の特徴とも言えるのが、これら分析・検証を専従で行う「Qライン」を配置していること。介護職員として人員基準には含むが、その日は直接介護を行わず、間接業務と生産性向上に係る分析業務を担う。

 「業務最適化の視点を全職員がもつきっかけになる。施設長の負担軽減の意義も大きい」と藤崎氏。春田氏は「Qラインに入ることで、肉体労働・感情労働に『考える時間』が加わった。仕事の新たな面白さも感じてもらえているのでは」と述べる。成城南は職員全員が正社員・常勤。今年度は1人も離職者が出ていないという。

 4月の介護報酬改定で新設される生産性向上推進体制加算について藤崎氏は「『未来の介護』実践施設の中から、初年度は30施設ほどの算定をめざしたい。しっかり介入し体制を整える必要があるだろう」と考えを示す。さらに算定施設では「3対0.9人」の特例的な人員基準緩和にも取り組むと話した。
(シルバー産業新聞2024年3月10日号)

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