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「基準緩和は処遇改善の放棄」 改正介護保険法に危機感 / 認知症の人と家族の会 和田誠共同代表 志田信也副代表

「基準緩和は処遇改善の放棄」 改正介護保険法に危機感  /  認知症の人と家族の会  和田誠共同代表 志田信也副代表

 6月19日に参議院で可決、成立した改正介護保険法をめぐり、認知症の人と家族の会(本部・京都市)の和田誠共同代表(写真)、志田信也副代表理事は本紙の取材に対し、人材不足を理由に人員基準の緩和や地域支援事業への移行を進めることに強い危機感を示した。利用者側として、介護職員の処遇改善に伴う負担増には一定の理解を示す一方、「サービスを縮小し、基準を緩める方向では、介護保険の理念が大きく変質しかねない」と訴えた。志田氏は、参議院厚生労働委員会で参考人として意見陳述した内容について「万策尽きた末の改正ではない。人材確保に必要な手立てを十分尽くさないまま、基準緩和へ進もうとしていることが問題だ」と強調した。

志田信也副代表

志田信也副代表

訪問介護の基準緩和「処遇改善が先」

 特に問題視するのは、訪問介護員の不足への対応である。ホームヘルパーの有効求人倍率は長年高止まりしており、同会は利用者・家族の立場から、2013年以降、訪問介護人材の確保を求め続けてきた。しかし、現実には人材確保の成果は乏しく、今回の改正では処遇改善や報酬引き上げよりも、人員配置基準の緩和やサービス提供体制の柔軟化が前面に出ていると受け止める。
 志田氏は「介護職と全産業平均との賃金差を埋める努力をしないまま、基準緩和に向かうのは順序が違う」と指摘。「地方の訪問介護事業者の中には、緩和を受け入れれば、報酬引き上げや処遇改善を求める根拠を自ら手放すことになると受け止める声もある」と話した。

特定地域、ケアプラン有料化にも懸念

 今回の改正法に盛り込まれる「特定地域」の範囲にも懸念を示した。国は、訪問介護事業所が存在しない地域など、サービス確保が難しい地域への対応として説明しているが、同会は、将来的に対象地域が広がり、介護保険給付から地域支援事業への移行を進める「道筋」になることを警戒する。
 過去には、要支援者の訪問介護・通所介護が総合事業へ移行した経緯がある。同会関係者は「要支援1.2の総合事業化では、利用者数は増えているのにサービス利用が減っている地域もある。結果として給付抑制につながり、利用者の不満は自治体に向かう構図になった」と指摘。今回も同じように、国が制度の枠組みをつくり、実際の責任を市町村に移すことにならないかを懸念している。
 一方で、同会は利用者負担の増加を一律に否定しているわけではない。介護職員の確保や処遇改善に確実につながる加算や負担については「利用者側にも一定の理解がある」とする。ただし、物価高騰の中で高齢者の生活は厳しく、介護サービスを減らせないために生活費を切り詰めている実態もあると訴えた。

負担はそのまま、サービス縮小、人員基準緩和の懸念

 「負担が増えても、それが職員に反映され、サービスが維持されるなら受け止めざるを得ない。しかし、保険料は下がらず、サービスだけが縮小し、人員基準だけが緩和されるのであれば納得できない」と述べた。
 住宅型有料老人ホームを対象とするケアプラン有料化についても、「蟻の一穴」になりかねないと警戒する。今回の対象は住宅型有料老人ホームなどに限定される見通しだが、将来的に「同じ在宅サービス」として一般在宅にも広げられる可能性があるとみる。
 また、国は囲い込み対策として説明しているが、志田氏は「ケアプラン有料化が、なぜ囲い込み対策になるのか根拠が見えない」と疑問を示した。むしろ報酬が低く設定されれば、外部の居宅介護支援事業所が受けにくくなり、住宅型有料老人ホーム側の囲い込みが強まる恐れもあるとした。

認知症基本法の理念にならい、GPSは本人の意思確認とともに

 認知症基本法との関係について、和田共同代表は、理念と現場実態のずれを指摘。同法は、認知症の人を単なる支援の対象ではなく、ともに社会をつくる主体として位置づける。一方、介護保険サービスの現場では、認知症の人が一般の通所介護になじめず、認知症対応型通所介護が「最後の受け皿」になっている実態もあると話す。
 「理念として、どこでも認知症の人が当たり前に暮らせる社会をめざすことは重要だ。しかし、現場の受け皿が整わないまま制度だけを変えると、本人や家族がかえって困ることになりかねない」と述べた。
 通信機能やGPS機能を備えた福祉用具についても、本人の意思確認を重視する考えを示した。行方不明への備えとして家族の期待は大きいが、本人にとっては行動を把握されることへの抵抗感もある。和田氏は「私はGPSを必要とする人が活用することには賛成だ。その場合は、本人が『持っていると安心できる』と納得して使うことが前提。家族や専門職だけで決めるのではなく、本人の尊厳や人権を踏まえた運用が必要だ」と話した。

本人と家族のための介護保険であるべき

今回の改正法は、表向きには直ちに大きな影響が出るようには見えにくい。しかし、詳細は今後の社会保障審議会や介護給付費分科会で詰められる。同会は、国会での発言や要望書を通じて、今後の制度設計に利用者側の懸念を反映させたい考えだ。
 和田氏は最後に「介護保険は、介護を必要とする人と家族のための制度である。その原点を忘れてはならない」と訴えた。

「認知症の人と家族の会」 主張のポイント

「全国一律サービス」 の崩壊

 介護保険は、国が責任を負う仕組みから、自治体の判断に委ねる仕組みに変わろうとしている。現場での人手不足や給与格差などの課題に対し、安易な基準緩和はサービスの質を低下させる。特定地域における配置基準の緩和やケアプランの有料化が、将来的な給付抑制や利用者負担増の呼び水になる。配置基準緩和の前に、国は介護人材不足の根本原因である「8 万円の賃金格差」の是正を放棄してはならない。物価高騰の中で高齢者の生活はすでに苦しく、介護サービスを減らせないために生活費を切り詰めて介護費用を捻出しているという現状がある。

「囲い込み解消」というロジックの破綻

 審議会の検討がほぼなされないなかで、住宅型有料老人ホーム等へケアマネジメント料の利用者負担が先行導入される。既存の居宅介護支援事業所などが新サービス(登録施設予防支援など)を行う際、「みなし指定」という形をとるかもしれない。この新類型のケアプラン報酬は、通常の在宅ケアプランの3分の2から半分程度にまで引き下げられるとみている。むしろ、ケアマネジャーが撤退しサービスの閉鎖性を高めるリスクがある。

「ケアの対象」から「共に社会を作る主体」へ

 認知症基本法の理念と介護現場の現実との乖離について、本人の人権を尊重した支援が重要だ。本人の力を奪うような「先回りしたケア」になっていないか。行方不明防止のためにGPS 機能付き機器の利用が議論されているが、これは安全確保という利点がある一方で、本人のプライバシーや人権を侵害する恐れがある。本人が「自分の身の安全のために持ちたい」「持っていると安心する」と納得できている状態を目指すことが重要である。

(シルバー産業新聞 2026年7月10日号)

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