インタビュー・座談会

財務省 阿久澤孝主計官「自由競争が働く環境整備必要」

財務省 阿久澤孝主計官「自由競争が働く環境整備必要」

 福祉用具貸与の負担と給付のあり方は、政府の「経済財政再生計画と改革工程表」の中で検討課題として示され、今年中には結論を得ることになっている。厚生労働省が介護保険部会で検討を進める中、財務省は10月4日の財政制度等審議会の中で、改めて福祉用具貸与の仕組みの抜本的な見直しを求めた。財務省主計局の阿久澤孝主計官(厚生労働第一担当)に聞いた。

 ――財務省として、福祉用具に対する問題意識はどこにあるのですか。

 福祉用具貸与は他サービスと違い、公定価格ではなく自由価格になっている。競争を通じて価格が適正化されていくことを前提にこのような仕組みとされているが、現状では市場原理が十分に働いているとは言い難い。

 われわれが行った調査では、全く同一製品で最高価格と平均価格で10倍以上もの開きがある製品が存在することや、地域によって価格にバラツキがあることなどが分かっている。

 このような状況を公的保険という信頼性が求められる制度の中で容認し続けることはできない。そのため、①自由競争が働く環境整備②公定価格の導入――などの改革の方向性を提起させてもらった。

 ――具体的な改革とは。

 現行通り自由価格を維持するのであれば、ポイントは市場環境・競争環境の整備となる。前述したような価格差は、利用者の負担が1割あるいは2割と少ないため、十分なコスト意識が持てず、価格決定の場で、事業者側の価格形成力が強くなりがちな構造にあることから生じていると考えている。

 そのため、利用者の価格に対する意識を高めることが必要と考え、保険給付の割合を大幅に引き下げることを提案している。

 ――当初は「原則自己負担」という言葉で表現されていましたが。

 「原則自己負担(一部補助)」は、利用者にコスト意識を持ってもらう観点から、「一旦全額自己負担にした上で、事後的に償還払いにすることも考えられる」という意味で用いていた。しかし、「給付から外すのが目的なのではないか」など、われわれが意図しない誤解も生んでしまったため、「保険給付の割合を大幅に引き下げる」という表現に切り変えた。

 提案内容や問題意識が変わったわけではない。

 ――利用者負担の引き上げに反対する声は大きいです。

 貸与価格については、現行の仕組みのままで良いとは思えない。

 例えば医療保険で、薬や医療材料などに公定価格が採用されている理由は、自由価格では価格の高止まりを生むのではないかという懸念も関係している。それを踏まえると、福祉用具貸与も同様に、公定価格の設定を検討することも考えられる。

 ――給付割合引き下げによる競争環境整備が第一案で、それが出来なければ公定価格導入との考え方ですか。

 やはり一定程度の自己負担がなければ利用者はコスト意識を持てず、十分な競争は行われないと思う。二者択一の提案というわけではないが、それができないのであれば、医療保険の例にならって、価格の大きなばらつきを防ぐ手段として、公定価格を設定することなども検討していく必要があるということだ。

 ――競争が働く価格のあり方とは。

 利用者にとって「なぜその価格になっているのか」「他の事業者と何が違うのか」などを、わかりやすく区分けして公表していくべきだと考えている。

 現在の貸与価格は「本体価格+附帯サービス」で包括的に成り立っている。価格の差が、本体と附帯、あるいは附帯サービスの内容の差異から生まれているのであれば、そこを利用者が比較しやすい形にしないといけない。

 また、現行制度では附帯サービスの範囲も、ある程度自由に事業者が決められるため、結果的にさまざまなサービスを追加して貸与価格に上乗せすることが可能となっている。

 本来、公的保険の給付範囲は制度改正の議論の中で精査し、特定されるべきだが、福祉用具についてはそれがなされていない。こうした点も見直しが必要だろう。

 ――現在の介護保険部会の議論では、財務省が提案するような内容の議論は深まっていませんが。

 まだ結論が出たわけではないと承知している。われわれがとくに問題視しているのは、現行の価格形成の仕組みが適正か否かということ。「外れ値」を是正するだけでよいとは考えていない。そうしたことを踏まえ、どのような改革を行うべきか、よく議論してもらいたい。

 ――仮に財務省の提案が見送りになった場合、財政規律をどのように正していくのですか。

 経済財政再生計画では、社会保障関係費の伸びを3年間で1.5兆円程度におさめることを目安としている。

 今年の宿題は今年中に返さないと、来年に負荷がかかってしまう結果になるため、引き続き、改革工程表などを踏まえた介護保険を含む社会保障制度改革の実現を提起していきたい。

 とくに福祉用具については、単に財源だけではなく、公的な制度としてのあり方の観点からも課題を抱えているので、今回の見直しで現行制度と何も変わらないという結論が出ることは、われわれとしては想定していない。

(シルバー産業新聞2016年11月10日号)

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