千田透の時代を読む視点

福祉用具貸与価格の上限設定、ルール見直すべき/千田透(連載70)

福祉用具貸与価格の上限設定、ルール見直すべき/千田透(連載70)

 4月10日に開かれた社会保障審議会介護給付費分科会で、福祉用具貸与価格の上限設定について、2019年度中の見直しは行わないことが決まった。事業者が適正な利益を確保できなくなるおそれや、サービスの質の低下を招くことが懸念されていただけに、妥当な判断が行われたと評価できるだろう。

 そもそもは18年度改定の審議報告をとりまとめる際に、上限設定については利用者や事業者に与える影響が大きいことを考慮して、「施行後の実態も踏まえつつ、実施していく」との一文が付け加えられたことが、今回の判断につながっている。

 実態を見極めるために行われた調査で明らかになったのは、▽上限設定により高額な保険請求自体が排除された▽上限設定により福祉用具貸与事業所の74%が収益が減少した(減少する見込み)▽シミュレーションでは、設定された上限を見直すことで、影響が拡大していく▽多くの福祉用具貸与事業所で、「商品カタログの価格修正・再印刷の発生」や「事業所内システムの改修作業の発生」の事務・経費負担が発生している――などだ。

 ここで最も大事なのは、「上限設定により高額な保険請求が排除された」ことが、上限価格の見直しを行わない理由に挙げられている点であろう。そもそも財務省から同一製品でありながら、10倍を超す商品が存在することが問題視され、貸与価格に上限を設けることにつながった経緯がある。上限設定は「外れ値対策」という制度の趣旨をはっきりさせた点は大きく評価できる。

 ただ、そうであるならば、上限設定を「概ね1年に1度見直す」というルールそのものについても、見直していくべきだ。今回の調査結果でも示されているように、シミュレーションでは、上限を見直す度に影響が拡大していくことや、多くの事業所で、「商品カタログの価格修正・再印刷の発生」や「事業所内システムの改修作業の発生」など、貸与価格とは別の部分で経費負担が発生している。こうしたコストは結局のところ、貸与価格に跳ね返ってくるか、メンテナンスやモニタリング、人材育成など、目に見えにくい部分でのコスト削減につながり、サービスの質を低下させていくからだ。

 今回の審議結果では、新商品については、当初の予定通り、2019年度中も3カ月に1度のペースで上限設定が行われることになった。このことが事業者の貸与価格の購買や値付けなどにどのような影響を与えているのか、調査していく必要がある。事業者によっては、全国平均価格や上限価格が分かるまで新製品を買い控えるなど、市場のメカニズムをゆがめている可能性もあるのではないか。

 福祉用具や住宅改修は、地域包括ケアを進めていく上でベースとなる、環境調整のサービスである。うまく活用すれば、マンパワーのサービスを代替することもできる。人手不足が問題となる中で、こうした効果は、今後ますます重要になってくるだろう。そのためにも、適切な競争や価格が維持される制度にしていく必要がある。

 千田透(全国生活協同組合連合会 常務理事)

(シルバー産業新聞2019年6月10日号)

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