インタビュー・座談会

逢坂伸子・大東市長 地域リハビリテーションがベース 介護保険を上手に使い、人材不足に対処

逢坂伸子・大東市長 地域リハビリテーションがベース 介護保険を上手に使い、人材不足に対処

 大阪都心から電車で20分ほど、大阪府東部に位置する大東市(人口11.5万人、高齢化率27.3%)は、半世紀以上にわたり地域リハビリテーションを実践してきたことで知られる。1985年に他に例のない「理学療法課」(当時)を置き、それ以降、市職員のリハビリテーション専門職が地域に出向き、障がい者・高齢者への様々な支援に取り組んでいる。昨年5月、理学療法士として34年間市に勤め、障害福祉や介護施策などに携わってきた逢坂伸子さんが、市長に就任した。全国でも珍しい福祉系出身の首長として、長年培った地域リハビリテーションのスタンスを基盤に、「地域を元気にしたい」と意気込む逢坂市長に、介護などの施策について聞いた。

 大東市の地域リハビリテーションは、1960年代中頃に理学療法士の山本和儀氏が、障がい児の保護者の会の活動支援に関わったのがはじまり。障がいの有無にかかわらず、住み慣れた地域で教育や、成長に合わせた支援を受けられるよう、関係機関や住民らに働きかけながら、ハード面・ソフト面での環境整備に取り組んできた。その流れが高齢福祉分野にも拡がり、様々な介護予防施策の取り組みへとつながっている。
 ――市の高齢介護室課長を辞して、市長選に出馬したのは。

 私自身、高校生の時に地域リハビリテーションの現場を見たのがきっかけで、理学療法士を志した。資格取得後、臨床を経て大東市の理学療法課に入職して以来、地域と関わる中で多くの住民の方々に育てていただいた。3期務めた前市長が勇退を表明されたことを受け、これまで積み重ねてきた地域リハビリテーションの流れを絶やさず、もっと住みやすいまちにすることが、住民への恩返しだと考え、立候補した。

 ――就任後のスタンスは。

 長年理学療法士として活動する中で、多くの住民の生活実態を目の当たりにしてきた。市民の困りごとを市政に的確に反映させるため、定期的な対話の場を設けるなど、市政への関心や参画意識を引き出すよう努めている。

 さらに、これまでまちづくりや健康増進などに取り組んできた、民間企業との連携もさらに推進していく。これらを通じて、地域全体をより良くして個々の力を引き出す、地域リハビリテーションの理念に基づく市政を進めている。

 ――高齢者介護分野での取り組みは。

 当市では2035年に、要介護・要支援認定率が6割になる85歳以上の人口が、今の1.6倍ほどにまで増える一方で、15~64歳人口は15%ほど減少する見込み。この状況に対処するには行政だけでは限界があり、①介護専門職以外の新たな支え手の確保②介護予防の強化③介護保険の上手な使い方をみんなが知る――という「三本の矢」の考え方を示し、市民の理解と参画へ向け啓発を図っている。

 ――三本の矢のうち、①新たな支え手の確保について。

 現役世代が減り続け全産業が人手不足の中、介護専門職だけを増やすのはかなり困難だ。そこで、新たな支え手として今後も増えるシニア世代を中心に、ボランティアとして軽度者の生活支援を担ってもらう「生活サポート事業」(※1)を2014年から運用している。

 16年度から総合事業の「訪問型サービスB」に位置づけ、現在では14年に600人ほどいた訪問型利用者の約半数を担ってもらっている。現在、訪問型の従前相当利用者は7人、A型の利用者は84人となっている。

 なお、総合事業の通所型サービスBでは、「お風呂で元気事業」がある。ホテルやケアハウスなど、バリアフリーの浴室を利用し、1回100円で入浴でき、必ず「大東元気でまっせ体操」をして帰ってもらう。無料の移送サービス(訪問D型)を使えば、帰りに買い物も付き合ってもらえると好評だ。

 ――②の介護予防の取り組みについて。

 当市は2016年に総合事業へ移行したが、それより前の2005年からオリジナルの介護予防体操「大東元気でまっせ体操」の普及活動を始めた。市職員が地域に出向き、高齢者へ介護予防に取り組む重要性を伝え、グループ立ち上げを促してきた。一般介護予防事業として定着し、高齢者が自主的に体操や交流を行うグループは現在市内に約140カ所あり、元気な人から軽度要介護者まで幅広く参加し、認定率や介護予防給付費の抑制につながっている。

 また、前述の生活サポーターのほか、訪問D型を担う「移送ボランティアドライバー」(※2)、運動機能維持や閉じこもり予防を図る「みんなで畑活動サークル」なども介護予防につながる取り組みとして、参加を呼びかけている。

 ――③の介護保険の上手な使い方とは。

 市では年100回以上、介護保険や認知症、フレイル予防など、様々なテーマで住民の元へ専門職などが出向く「出前講座」を行っている。どのテーマでも、必ず大東元気でまっせ体操や生活サポート事業などを紹介した上で、市の介護保険事業を今後も持続させ、介護人材不足を乗り越えるには、住民一人ひとりが「介護保険を賢く使う」ことが必要だと伝えている。

 例えば訪問サービスなら、専門性が求められる有資格者によるケアは、将来中重度になった時までとっておく。それまでは、住民主体の生活サポート事業などを利用してもらう。訪問介護事業所にとっても、軽度者から中重度者メインにシフトすることで、サービス単価も上げられる。ヘルパーの処遇改善もしやすくなり、人材確保や事業の安定にもつながるのではないか。

 ――「福祉用具貸与事業所による介護予防事業」の現況は。

 2023年度から本格実施した同事業は、介護保険で手すりの貸与のみを1年以上使う要支援者に対し、市から定価の5%で新品を提供し、以後6カ月ごとに福祉用具専門相談員がモニタリングなどを行う。モニタリングで身体状況に変化があれば、地域包括支援センターに共有してもらい、必要に応じて介護サービスにつなぐ対応も可能だ。

 事業開始前に3割ほどあった福祉用具貸与のみの「単品プラン」がほぼ解消され、それまで約1500件あった要支援プランは500件未満にまで減少。介護予防マネジメントの負担が大きく軽減された。

 ――今後の課題は。

 当市は比較的小さな自治体だが、駅が3つあり高速道路2路線が通るなど、各方面からのアクセスが良い。しかし、その魅力をうまく伝えられていないのが実情だ。そこで今年4月、専門のアドバイザーを招き、職員自身が営業マンとして企業誘致に取り組む部署を新設した。民地・公有地の遊休資産を洗い出し、固定資産税の特例なども活用しながら企業誘致を図り、福祉など市民の生活を支えるための原資へ再配分できる流れをつくっていきたい。
 (※1)講座を受けたサポーターが利用者宅を訪問し、買物や掃除、外出の付添い、ゴミ出しなどを支援する。利用料は30分以内ごとに250円、サポーターには謝礼金か65歳以上になれば同サービスを使える「時間貯金」を提供する。

 (※2)住民ボランティアが、移動困難な高齢者を大東元気でまっせ体操の会場などへ送迎。利用料無料。ボランティアドライバーには、片道250円、経費として月5000円の謝礼金が支払われる。
(シルバー産業新聞2025年9月10日号)

関連する記事

2024年度改定速報バナー
web展示会 こちらで好評開催中! シルバー産業新聞 電子版 シルバー産業新聞 お申込みはこちら

お知らせ

もっと見る

週間ランキング

おすすめ記事

人気のジャンル