インタビュー・座談会

日本ダイバージョナルセラピー協会 理事長 芹澤隆子氏に聞く 「したい」や「思い」をケアの力に

日本ダイバージョナルセラピー協会 理事長 芹澤隆子氏に聞く 「したい」や「思い」をケアの力に

 利用者の「したい」から、楽しみや役割を毎日のケアにつなぐダイバージョナルセラピー(DT)。特養や老健だけでなく、病院や在宅サービスにも広がっている。本人の楽しさや意欲をどう導き出し、スタッフの喜びや働きがいにつなげるのか。日本DT協会の芹澤隆子理事長に聞いた。同協会は11月14日、米国の専門家を迎えて「日米DT&RT交流フォーラム」を東京で開く。

 ――DTは、ふつうのレクリエーションと何が違うのでしょうか。

 芹澤 今までも歌や体操、イベントによるレクリエーションは十分に楽しまれていると思います。DTではまず「この人は何が好きか」「どんな人生を歩んでこられたか」「これから何をしたいか」をアセスメントによって知ることから始めます。仕事や家族、趣味、ふだんの過ごし方などを聞き、辞めてしまったことや苦手なことにも目を向けます。そこから計画を立て、実践し、本人が楽しめたか、どんな意味があったかを振り返ります。「本人を知る、計画する、やってみる、変化を見る」。これをくり返し、記録を録って職員間で共有。本人の「したい」や「思い」を毎日のケアにつなげていきます。

 ――介護施設では、どんなことをしていますか。

 芹澤 プログラムは無限にあると言っていいでしょう。例えば施設などでよく実践されている「アートで遊ぼう」では、季節や生活にちなんだ会話や歌に始まり、花や作物に触れたり実際に味わったりした後で、大きな紙を囲み、利用者が思い思いの色を選んで筆を動かします。五感が刺激されているので、皆さんはイメージがわきやすい。上手に描くことが目的ではありません。色を楽しむ、手を動かす、他者の作品を見る。そこから表情や会話が豊かになります。そのプロセスを楽しむことが大切です。「この人は何を望んでいるか」を観察し、その人の人生を深く知る。その積み重ねです。

 ――在宅での取組はどうですか。

 芹澤 訪問看護や訪問介護で実践しているDTワーカーもおられます。私がボランティアとして経験した訪問DT(Yさんに2年間)では、フェイスシートの趣味欄は、「無し」でしたが、お宅の風鈴に自筆の句があり、俳句や字を書くことが好きだったこと、自らの過去や家族に強い愛着のあることが分かりました。そこで思い出を聴きながら昔の写真を使ったアルバムづくり、俳句、足湯、花見などを行いながら訪問を重ねました。家族からは「訪問後は穏やかな表情」、通所先からも「職員への依存が少ないように感じる」との声がありました。若い母親の終末期や、孤立している高齢男性への料理によるアプローチなどの例もあります。

 ――DTをすると、利用者にはどんな変化がありますか。

 芹澤 まず自分で意思表示し、選ぶ場面が増えていきます。好きなことをきっかけに、人と話す、リハに励む、自信を取り戻すといった動きも自然に生まれます。

 認知症の人にSONASセッション(会話、音楽、五感への働きかけなどを通じて交流を促すプログラム)を続けた研究では、参加したかなりの人に社会的認知やMMSE(認知機能をみる簡易検査)の改善が見られました。ただ対象者が少なく、この研究だけで効果を言い切ることはできませんが、これらの変化を次のケアに活かすことが大切です。

 ――医療にも同じ考え方がありますか。

 芹澤 医療にも通じる考え方があると思います。協会では大阪国際がんセンターの道田知樹先生に「がん医療の現状と将来〜医療・介護でのシームレスなセルフケアを見据えて〜」をご講演いただきました。「治療法が増えるほど『治せるか』だけでなく『本人はどう生きたいか』も大切になる。本人の思いや人生に寄り添いながら医療やケアを選ぶ。その考え方はDTにも重なるのではないか」と話されました。

 ――DTをするスタッフは、どう学ぶのですか。

 芹澤 日本DT協会では2008年からDTワーカー養成講座を続けています。オンラインでの学びと2日間の対面研修を通じ、DTの理念や本人を知る方法、プランづくり、コミュニケーション、DTの進め方を学ぶ他、行動分析や脳科学、睡眠等についても基本的な講座があります。レクリエーションのネタを増やすだけでなく、「なぜこの人に、これをするのか」を丁寧に考えることを大切にしています。

 ――どんな職場の人が参加していますか。

 芹澤 特養や老健だけでなく、病院、クリニック、デイサービス、訪問介護、訪問看護、通所リハ、特定施設、グループホーム、福祉用具貸与、小多機、住宅型有料老人ホーム、教育分野など、さまざまな現場から受講されています。医療、介護、リハ、福祉用具などがつながり、「どう暮らしたいか」を一緒に考え、支えていければと思います。またDT実践施設の職員だけでなく、個人で初めてDTを知ったという受講生も多くいます。そのような方は、施設の中では小さな力かもしれませんが、レクリエーションや介護の中にDTマインドを活かしていく貴重な存在です。

 ――いま介護現場では生産性向上が求められています。DTは業務負担になりませんか。

 芹澤 手間暇かけて新しいイベントを作るだけではありません。食事、散歩、会話、外出など、いつもの暮らしに、その人の「好き」や役割を取り戻すこともDTです。ICTや介護テクノロジーで仕事を効率化し、そこで生まれた時間を利用者と話し、その人を知る時間に充てようという意識を持つことが大切です。

 毎年開催している全国大会では、DT専任スタッフを置いたことで職種間の連携が進み、利用者の願いをかなえやすくなった例も発表されました。認知症を伴う方もよい刺激を受けて楽しい時間が増えれば、トラブルも少なくなるでしょう。「楽しくなれば楽になる」です。

 ――海外ではどうでしょう。

 芹澤 国によって呼び方や資格は異なりますが、オーストラリア、ニュージーランド、米国、カナダ、イギリスなど我々が連携している国では、DTやRT、アクティビティの専門家が、専門職として働いています。

 日本DT協会も各国との交流を広げています。その一つとして11月14日、「日米DT&RT交流フォーラム」を東京で開きます。札幌でも地元の実践法人である豊生会グループの主催(日本DT協会共催)で同様のフォーラムを開催し、米国の専門家と日本のDTワーカーが、お互いの実践から学び合います。海外の方法も導入しつつ、日本の暮らしや介護に根差したDTを育てていくことが大切だと考えています。

 利用者が「やってみたい」と言い、スタッフもその変化を一緒に喜ぶ。ICTなどで生まれた時間を、人と向き合う時間に使う。DTは「効率よく働くこと」と「良いケア」をつなぐ一つの方法になり得ると思います。

 ※RTはRecreational Therapyの略で、各国の取組みの総称として用いています。

11月14日開催 「日米DT&RT交流フォーラム in東京」

 日本DT協会が11月14日(土)に、「日米DT&RT交流フォーラム」を東京で開催する。
 芹澤理事長が日本のDTと国際交流を紹介し、東京科学大学教授の福井小紀子氏とNational Association of Activity Professionals(NAAP)のColleen Keegan氏が基調講演を行う。さらに、日本各地のDTワーカーの実践発表や日米交流が行われる。

日時:2026年11月14日(土)、10時~17時30分
会場:TKP浜松町南口ビジネスセンター
定員:100人
参加費:日本DT協会会員無料、非会員2,000円
申込み:日本DT協会ウェブサイトより
(シルバー産業新聞2026年9月10日号)

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