インタビュー・座談会

新春座談会「ケアマネジメントの標準化」/石山麗子・遠藤征也・小沼弘樹(後編)

新春座談会「ケアマネジメントの標準化」/石山麗子・遠藤征也・小沼弘樹(後編)

(前編からつづく) 国が調査研究を進める「ケアマネジメントの標準化」をテーマにした本紙の特別座談会。後編では、「標準化」とは何か。その意味が解き明かされます。4月からの市町村への居宅介護支援の指定権限移行を目前に、本座談会はヒートアップ。標準化が現場でどう役立つのか、調査研究にかけた想いは、といった話が交わされました。

ケアプランの根拠を示せる

 石山 これまでのお話を整理すると、国がケアマネジメントの標準化に取り組むのは、ケアマネジャーの力量による支援内容の差を縮小することが目的とのお話がありました。そのため、昨年度から調査研究を行い、成果物として脳血管疾患と大腿骨頚部骨折の2疾患について、想定される支援内容を整理したシートを作成し、今年度はその有効性などについて実証事業に取り組んでいるところです。シートは調査研究を実施した日本総研のホームページからダウンロードできますので、ケアマネジャーの方には是非一度ご覧になっていただけたらと思います。

 さて、ここからはケアマネジメントの標準化を進めていくことが将来、現場でどのように役に立っていくのかについて考えてみたいと思います。まずは、この4月から居宅介護支援事業所の指定権限が都道府県から市町村に移譲されることについて、遠藤室長にお伺いします。

 遠藤 指定権限が市町村に移譲されることによって、ケアマネジャーと保険者である市町村との距離や関係がこれまで以上に近くなるため、うまく協働できれば、その地域の特性を活かすなどして非常に効果の高い、適切なケアマネジメントが展開される可能性があると考えています。

 ただし、そうしたチャンスを生かすには、いくつかの条件が揃っている必要があると思います。1つ目は、ケアマネジャーが自らの資質を向上させるための自己研鑽を恒常的に行っていること、2つ目が介護保険の理念や哲学を保険者と現場が共有していること。3つ目がケアマネ個人ではなく、組織として保険者に働きかけ対話していくこと。この3つが揃っている地域は、これまで以上に利用者の視点を重視した利用者本位のケアマネジメント支援ができるようになるはずです。

 石山 小沼さんは現在、東京都の北区ケアマネジャーの会の副会長という立場で、保険者と対話もされてきていると思いますが、いかがでしょうか。

 小沼 私たちの地域では、保険者と一緒になって利用者の視点に立った介護保険制度を創っていこうと努力しているところです。特に意識しているのは、区と協議をする際に「ケアマネジャーとしてこういう想いや考えがあるので、この点は押さえて欲しい」と率直に言える関係を創ることです。その際、大事だと思うことは、自分の利用者だけを見て物を言っても何も変わらないということです。保険者機能の強化を踏まえた上で、北区ケアマネジャーの会の「組織」としての声を届ける仕組みづくりに取り組んでいるところです。ケアマネが組織として行政と対話すること、この点は重要だと思います。

 石山 北区ケアマネジャーの会では、前回の法改正の際に、要望書ではなく提言書をまとめられていますね。

 小沼 現場のケアマネジャーにアンケートを行い、介護保険に絡む部分だけでなく、例えば道路の段差や、公共設備のトイレの状況など、そうした地域の情報も併せて保険者に伝え、どうあるべきか、自分たちに何ができるか等も含めた提言書を出しました。

 また、北区では保険者による給付適正化事業においても、ケアプラン点検を地域の主任ケアマネジャーと共に行う予定です。そこも行政が職能団体と共にチェックの視点を定めて、「一緒になってやっていきましょう」というスタンスになっています。利用者や地域住民の目線で考えるのは、ケアマネジャーも保険者も共通なので、そこを軸にしながら対話をしていくことで、現場と行政の溝を埋めていくことができると感じています。
 厚生労働省老健局振興課 介護支援専門官 石山麗子さん

 厚生労働省老健局振興課 介護支援専門官 石山麗子さん

(いしやま・れいこ)
 国際医療福祉大学大学院保健医療学部博士課程修了。博士(医療福祉学)。東京海上日動ベターライフサービス、シニアケアマネジャーとして、社内120名超のケアマネジャーの育成を担当。16年、厚生労働省老健局振興課介護支援専門官就任。

 遠藤 今、小沼さんから溝という言葉が出てきました。では、なぜケアマネジャーと保険者との間に溝が生じるのでしょうか。それは保険者のケアマネジメントに対する理解不足という面も一部あるかとは思いますが、私はケアマネジャーが自らのプランを根拠立てて相手が理解できるよう十分に説明をしてこなかったことが大きな要因ではないかと思っています。

 例えば、保険者が過剰なサービスを疑うケースがあった時に、担当者がケアマネジメントを十分に理解しておらず、単に平均値から乖離していることのみを理由に過剰だと指摘している場合もあると聞いております。そうした時は、現場の方から「具体的にこうこうこういう理由で」など根拠に基づく説明や関連する情報を提供してあげないと、保険者が理解することは難しいと思います。結果、互いに距離ばかりできてしまい、不満が残ります。

 その際の一番の被害者は、保険者でもケアマネジャーでもなく、適切なケアマネジメントが受けられない利用者です。反対に、明確にケアプランの根拠を説明できれば、市町村の担当者もサービスの必要性を理解できるはずです。ケアマネジャーに「組織としてしっかり根拠のある説明をしていこう」「保険者と対話していこう」というスタンスがあれば、溝は埋まっていくと考えています。

 石山 これまではケアマネが専門職としての思考を標準化し「これがケアプランの根拠です」と示せるものがありませんでした。そのため、保険者から過剰なサービスではないかと指摘された場合は、個人がケアプランの正当性を保険者に訴えるしかありませんでした。今回のケアマネジメントの標準化は、まだ脳血管疾患と大腿骨頚部骨折の2疾患だけですが、新人・ベテラン問わず、すべてのケアマネジャーがケアプランの根拠を示せるようになります。地域ケア会議の場などで、是非、有効に活用してもらいたいです。

 あわせて、国の方でも指導監督にあたる市区町村の職員向けに、ケアマネジメントを理解してもらうための冊子を作成し、ケアマネジャーが適切なケアマネジメントを実践しやすい環境を整える取組も進めています。小沼専門的な実践を当たり前に実行できる環境を創っていくことも、われわれの専門性だと思います。

 保険者がケアマネジメントを理解してくれていないと諦めるのではなく、理解してもらえるよう働きかけていく。そのために今回のツールをうまく使わないともったいないなと感じました。
 厚生労働省老健局総務課 介護保険指導室長 遠藤征也さん

 厚生労働省老健局総務課 介護保険指導室長 遠藤征也さん

(えんどう・ゆきや)
 1985年厚生労働省(旧厚生省)入省。社会援護局、大臣官房、総務省を歴任。介護保険制度創設に従事後、2002年~09年、12年から老健局において制度改正に従事。15年4月より現職。〈著書〉「医療と介護の連携のための疾患別ケアマネジメント基礎講座Vol.1」など。

「組織で保険者と対話していく」

 遠藤 ケアプランはオーダーメイドのものであり、標準化できるものではありませんが、疾患などのエビデンスのある部分については、一定程度整理できるのではないかと考え、今回の調査研究に取り組みました。ただ、アプローチ手法が脳血管疾患と大腿骨頚部骨折という疾患に着目しているため、「ケアマネジメントの標準化=疾患別の整理」との誤解もあると聞きました。

 当然ですが、ケアマネジメントを展開する上での課題は身体的なものだけでなく、例えば独居や認知症、虐待が疑われる場合など心理面や本人を取り巻く環境面など、多岐に渡ります。特に昨今課題が重層化していますので、ソーシャルワーク的な部分も標準化していくことが必要です。

 今回の調査研究では、比較的エビデンスが整理されている疾患から調査研究を進めたというだけで、ケアマネジメントの標準化は疾患別の整理ではありません。目指しているのは、ケアマネジャーが関わるあらゆる利用者の状態像や条件に合わせて標準化を図っていくことであり、国として今後も調査研究を進めていきます。

 石山 この調査事業を行うにあたり省内で「どうしたら標準化が図れるのか」「そもそも標準化とは何なのか」を、それこそ毎日のように議論しました。今回、調査研究の成果物として2つの疾患にアプローチするためのシートができあがりましたが、ポイントはケアマネジメントの標準化を概念整理した点だと思います。

 標準化を図るための手法として、シンプルに統計処理をして、ある状態像に対してより多く位置づけられているケアプランを「標準」とする考え方もありました。しかし、生活習慣や価値観は人によって違って当然なので、そうしたやり方では、必ずしも正解を導けません。今回の調査研究の軸になっているのは、標準化できる範囲を限定し、統計から解を導くのではなく「現場の専門職の頭の中にある正当」から標準化を進めていった点です。

 ケアプランを立てる思考過程で、優秀と言われるケアマネジャーが共通項としてやっていることは何なのか、それを丁寧に収集して一つずつ整理をしていく。言うならば「現場の英知を標準化した」というのが今回のポイントです。

 遠藤 ただし、優秀と言われる方々がやっていることをもって「標準」とすることはできないので、今回の調査研究では、翌年度に全国のケアマネジャーに協力してもらい、実証事業という形で数百人の方々に見てもらい、その上で本当に使えるものなのか、修正した方が良いのはどの部分なのかを2年かけて実証検証を行っています。

 概念整理の部分でもう一つ大事にしたのは、セルフマネジメントが大前提になっていることです。ケアマネジャーに必要なマネジメント力というのは、サービスの調整はもちろんですが、その方の持っている能力をいかに引き出せるか、さらに可能であるなら将来的に発展させていくことができるかが最も大事な部分です。その概念が近頃は矮小化されてしまっているように感じています。

 シートの支援項目を見てもらうと分かりますが、介護保険のサービスだけではなく、本人ができること、家族ができることは何かがたくさん書き込まれています。セルフマネジメントや行動変容を最初に考えた上で、その先に介護保険のサービスにつなげていくという考え方になっています。

「どう活用するかは私たち次第」

 小沼 今、遠藤室長のお話を聞いてシートを見返すと、セルフマネジメントの考え方が随所に盛り込まれていると感じます。そして、現場の意見を踏まえて作成されていることに、ケアマネジャーに対する信頼と期待を感じます。そして責任も感じます。

 石山 今回のシートは、日々の業務や地域ケア会議のほかに、教育現場でも使ってもらうことを想定しています。さて、お時間となりました。最後に一言ずつお願いします。

 遠藤 介護の状態になって、中には「死にたい」などと人生をあきらめている方がたくさんおられます。でも、そこにケアマネジャーが関わることによって、「もう一度自分の生活を立て直そう」「あきらめないでやってみよう」という「もう一度生きる力」を与えられるかがすごく重要だと思っています。そこがまさに尊厳の保持であり、ケアマネジメントを思考する上での原点だと思っています。今回のシートが少しでも現場の役に立って、それぞれの地域で創意工夫して発展していただければ嬉しいです。

 小沼 最初に「ケアマネジメントの標準化」という言葉を聞いた時は、正直、かなり抵抗がありました。ですが、本日の話を聞いて、シートに込められた考えや創った人たちの想いを知ることができ、誤解が解けました。実践でどう活用するかは、私たちに任されていると思いますので、有効に使っていきたいと思います。

 石山 介護保険制度創設時と今では、利用者像も社会背景も変化しました。変化の中でケアマネジャーの役割について改めて考えなくてはならない時期に来ていると感じています。給付管理などのサービスマネジャーとしてやっていくのか、それともケアマネ自身による利用者の持つ力を引き出す意図的な介入や、多職種協働の相乗効果をあげるマネジメント等の力を発揮していくのか。私は後者がケアマネジャーの進むべき道だと信じています。今回、初めてケアマネジメントを標準化に取り組んだこともケアマネの教育や業務の今後の発展に関連する大切な整理の一つであったと振り返っています。ただし考え方を整理したに過ぎませんので、是非、現場の皆さまの手で活きたものとなるよう育てていただきたいと思います。本日はありがとうございました。 (了)
 北区医師会訪問看護ステーション 介護支援専門員 小沼弘樹さん

 北区医師会訪問看護ステーション 介護支援専門員 小沼弘樹さん

(おぬま・ひろき)
 東京都北区生まれ。介護福祉士、住環境コーディネーター2級、社会福祉士、主任介護支援専門員。1995年より、介護老人保健施設で介護職員として勤務。2001年より、訪問看護併設の居宅介護支援事業所で勤務、現在に至る。北区ケアマネジャーの会副会長。

(シルバー産業新聞2018年2月10日号)

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