未来のケアマネジャー

経営実態調査から居宅介護支援の未来をみる/石山麗子(連載14)

経営実態調査から居宅介護支援の未来をみる/石山麗子(連載14)

 厚生労働省から去年12月27日、19年度介護事業経営概況調査結果が公表された。居宅介護支援の収支差率は今回もまたマイナスだった。制度施行されてから一度もプラスに転じたことはない。

収支差率プラスに転じたことのない居宅介護支援

 介護支援専門員の立場にたてば「こんなに一生懸命働いているのに、マイナス続きでは、自分たちの仕事ぶりを評価されていないようで空しい」という気持ち。経営者の立場からみれば「少なくとも平均がプラスとなるような報酬単価の設定にすべき」と思うだろう。

 黒字化した事業所とそうでない事業所では法人内での介護支援専門員の立場にも影響しかねない。黒字転換できていない場合、法人内の他事業に依存、いわば食べさせてもらっているという状況があるかもしれない。それなら由々しき状況だ。

 居宅介護支援事業所は、他のどの事業より、あらゆる意味での自律性が必要だからだ。なぜか。介護支援専門員は法令上も倫理上も〝公正で中立〟でなければならない。それ自体が介護支援専門員の価値だ。思考、発言、行動ともにそうあることだ。

 もし法人内で経営上自律した立場になければ、他事業に協力すべきとか、収入に直接結びつかない無駄な働きを少なくすべきといった観点に基づく業務効率化を要求されかねない。

 逆もしかりだ。「ケアマネは収支マイナスでも気にしなくていいんですよ」と言われるのは、自律した存在とみなされていない。事業である以上、また専門職である以上、自律的な活動は前提条件であり、環境整備を行う努力が望まれる。

依然マイナスだが明るいトレンド

 全体の収支差率の平均は3.1 %、18年度比は0.8%減少である。前回比で14のサービスで収支差率が減少し、増加は定期巡回等8サービスだった。は居宅介護支援の収支差率の推移(抜粋)である。

 ここから居宅介護支援の収支差率は依然マイナスだが、常に改善を続け、間もなくプラスに転じる可能性が期待できる明るいトレンドにあることがわかる。ものごとを捉えるとき、一時点の状況を見て判断するのではなく、状況が向かう方向性を捉え、より良くなるよう全体のバランスをみながら戦略を練る視点は欠かせない。

何が収支差率の改善に影響したのか

 一つ目にマイナス方向に引っ張る外れ値の解消だ。表はあくまで平均値だ。平均は標準的な姿を現しているとは限らない。データに外れ値が存在すれば、平均値は外れ値の方に引っ張られてしまう。居宅介護支援の特徴は前回調査までマイナス50%の事業所の割合が5%以上もあったことだ。19年度の報告ではそれが限りなくゼロに近づいていた。

 二つ目に収入の観点だ。18年度の介護報酬改定率は全体でプラス0.54%。報酬改定はプラス改定なのに、収支差率では14のサービスが減少している。

 したがって居宅介護支援の収支差率が改善されたということは、居宅介護支援がプラス方向にはたらく別の要素があったと考えられる。

 三つ目は二つ目に関連し、18年度報酬改定では財源が厳しいなかで居宅介護支援では、基本報酬アップ、退院退所加算と初回加算のすみ分けの整理、ターミナルケアマネジメント加算の創設等が行われたことだ。さまざま加算について課題はあろうが、全体でみれば収支差率を改善する要素となっていたと考えられる。

期待されている介護支援専門員

 なかには一気にプラスに転じるよう大胆な報酬改定をすればよい、と思う方もいるかもしれないが、社会保障全体の中での調整において特定したサービスだけを突出させ変化をつけることは難しいのが現実だ。

 居宅介護支援のマイナス幅は改善されていることをみれば、冒頭にあるように介護支援専門員の大変な仕事が徐々に理解され不可欠な存在だと思うからこそ着実にプラスに向かう方向で調整されていると見ることができる。

 その期待に応えるよう、厳しい環境下にあっても、介護支援専門員は、経営にも努力し寄与しつつ、日々利用者の幸せの実現にまい進して欲しい。このような努力の積み重ねが介護支援専門員の専門性の評価につながってもいく。

 私自身、株式会社で事業所の創設時から福祉的視点と経営が調和することを信じて取り組んだ経験があり、その苦労は痛感しているつもりだ。肝要なことは経営を最優先の目的にするのではなく結果とすること。必ず社会、地域は見ているし、その声は評価の後押しとなる。居宅介護支援が経営上花開く日は、もうそこまで来ている。
 石山麗子(国際医療福祉大学大学院 教授)

(シルバー産業新聞2020年2月10日号)

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